監督指針改正案、企業内代理店・法人営業が点検したい10項目 共同保険・独禁法・契約者意思をどう記録するか
金融庁が2026年9月11日に公表した「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案には、企業内代理店だけでなく、共同保険や複数社見積もり、引受割合・保険料率の調整などに関わる代理店・法人営業担当者が確認しておきたい内容が含まれている。
目次
- 「企業内代理店だけの話」ではない
- 「監督指針に書かれていること」と「実務上の確認」を分ける
- 1.自社が扱う「特定契約」を把握できているか
- 2.保険代理業の原価・経費を他事業と分けて把握できるか
- 3.「契約者の意思」を確認した記録が残っているか
- 4.業務執行・管理・内部監査の役割を説明できるか
- 5.競争関連情報を「誰に、何の根拠で伝えたか」追えるか
- 6.幹事会社や引受割合の決定に、自社がどこまで関与しているか
- 7.なぜ共同保険にするのか、案件ごとに説明できるか
- 8.「代理店の意向」と「契約者の意向」を区別できているか
- 9.保険料に関する依頼をするとき、判断材料となる情報を整理しているか
- 10.確定版が出たときに見直す社内文書を把握しているか
- 実務で残したいのは「誰が・何を・なぜ」
- 別個登録も廃止へ
- 参考資料
金融庁が2026年9月11日に公表した「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案には、企業内代理店だけでなく、共同保険や複数社見積もり、引受割合・保険料率の調整などに関わる代理店・法人営業担当者が確認しておきたい内容が含まれている。
今回の改正案では、企業内代理店に関する規制の再構築に加え、独占禁止法遵守態勢の構築、企業向け損害保険商品のモニタリングの高度化、損害保険代理店の別個登録の廃止などが示された。
ただし、2026年10月6日時点ではあくまで「改正案」である。パブリックコメントを経て、内容が修正される可能性がある点には注意したい。
INSURANCE JOURNALではすでに、今回の監督指針改正案の全体像を紹介している。本稿では制度そのものを繰り返し解説するのではなく、代理店や法人営業の現場で、いま何を確認しておけばよいのかという観点から10項目に整理する。
「企業内代理店だけの話」ではない
企業内代理店に関する特定契約比率規制の見直しは、企業グループと人的・資本的に密接な関係を持つ損害保険代理店が主な対象になる。
一方、今回の改正案には、それ以外の代理店にも関係し得る論点が含まれている。
特に共同保険については、保険会社だけでなく保険代理店も対象として、競争関連情報の取り扱いや共同保険とする必要性の検証について記載が追加されている。
乗合代理店は、複数の保険会社の引受割合や保険料率などの情報が集まりやすい。また、乗合代理店でなくても、幹事会社、引受割合、保険料率等の決定に関与する場合には、独占禁止法上の問題につながる可能性があることが示されている。
そのため、
共同保険を扱う
複数の損害保険会社から見積もりを取得する
幹事会社や引受割合の調整に関わる
他社の見積条件を取り扱う
といった業務を行っている代理店では、自社の業務フローを確認しておく必要がある。
「監督指針に書かれていること」と「実務上の確認」を分ける
以下の10項目は、すべてが代理店に対する新たな義務として監督指針に記載されているわけではない。
改正案で代理店について直接記載されている事項もあれば、保険会社側の管理態勢に関する記載を踏まえ、INSURANCE JOURNAL編集部が代理店側でも確認しておくべき実務として整理した項目もある。
それぞれの位置づけを区別しながら見ていきたい。
1.自社が扱う「特定契約」を把握できているか
位置づけ:改正案に直接記載
主な対象:特定契約を扱う損害保険代理店
改正案では、損害保険代理店が自ら募集する特定契約を把握し、所属保険会社に適切に情報共有する態勢について記載されている。
特定契約とは、代理店と人的・資本的に密接な関係を持つ者を契約者または被保険者とする契約をいう。
今回の改正案では、「特定者」の範囲についても見直しが示されている。
企業グループ内の契約を多く扱う代理店では、まず新しい考え方で整理した場合に、
どの会社が特定者に当たるのか
どの契約が特定契約に該当するのか
その情報をどのように集計・管理するのか
を説明できる状態になっているか確認したい。
2.保険代理業の原価・経費を他事業と分けて把握できるか
位置づけ:改正案に直接記載
主な対象:特定契約比率規制の適用除外を検討する代理店
改正案では、一定の要件を満たす代理店について、特定契約比率規制の適用除外となる枠組みが示されている。
その際に確認される事項の一つが、特定契約から得る代理店手数料が、保険料の実質的な割引・割戻しになっていないかという点だ。
代理店には、保険代理業における手数料や原価・経費等について、決算書などの根拠とともに説明できる態勢が求められる。
保険代理業以外の事業も行っている会社では、現在の管理方法で、
保険代理業にかかる人件費
システム費
事務費
その他の経費
を他事業と区分して把握できるか確認しておきたい。
3.「契約者の意思」を確認した記録が残っているか
位置づけ:改正案に直接記載
主な対象:企業等と人的・資本的に密接な関係を持つ代理店
今回の改正案では、「代理店の意向」と「保険契約者の意向」が混同されるリスクについても触れられている。
企業グループ内の代理店では、契約者と代理店の関係が近いからこそ、
代理店が考えていること
契約者企業が実際に判断したこと
を区別して記録する必要がある。
例えば更新時に、
「前年と同じ内容でお願いします」
という話があった場合でも、
誰がその判断をしたのか
契約者企業のどの部署・役職者なのか
何について前年と同じと判断したのか
まで後から確認できるだろうか。
長期間継続している法人契約ほど、担当者間の了解だけで手続きが進みやすい。契約者意思の確認方法と記録方法は改めて点検しておきたい。
4.業務執行・管理・内部監査の役割を説明できるか
位置づけ:改正案に直接記載
主な対象:特定契約比率規制の適用除外を検討する代理店
この項目は、すべての代理店に同じ組織体制を求めるものではない。
改正案では、適用除外の要件として、代理店自身がコンプライアンスやリスクに対応できる管理態勢を構築していることが挙げられている。
重要なのは部署名ではなく、
誰が業務を執行するのか
誰がその内容を管理・牽制するのか
誰が管理態勢そのものを検証するのか
が明確になっていることだ。
特に内部監査については、業務を行う部門から独立して検証できる態勢になっているか確認したい。
5.競争関連情報を「誰に、何の根拠で伝えたか」追えるか
位置づけ:改正案に直接記載された独禁法対応を踏まえた実務確認
主な対象:共同保険、複数社見積もりなどを扱う代理店
今回の改正案で重要なのが、保険会社間の競争関連情報の取り扱いだ。
共同保険などでは、
他社の保険料率
引受割合
幹事会社に関する情報
その他の見積条件
を代理店が取り扱うことがある。
ここで注意したいのは、「契約者から指示を受けていれば、競争関連情報を自由に共有してよい」という意味ではないことだ。
他社の条件を別の保険会社へ共有する必要が生じた場合には、まず契約者の意思・指示の主体と範囲を確認する。
そのうえで、
その情報を共有してよいのか
どの範囲まで共有できるのか
どのような方法で共有するのか
について、所属保険会社のルールや社内のコンプライアンス上の取扱いを確認する必要がある。
契約者から指示を受けていることだけをもって、競争関連情報を共有してよいと判断しないことが重要だ。
実際に情報を共有した場合には、誰からどのような指示を受け、誰に何を伝えたのかを後から確認できる状態にしておきたい。
6.幹事会社や引受割合の決定に、自社がどこまで関与しているか
位置づけ:改正案に直接記載
主な対象:共同保険を扱う代理店
独占禁止法上の論点は、乗合代理店だけに限られない。
改正案では、乗合代理店ではない代理店であっても、幹事会社、引受割合、保険料率等の決定に関与する場合には、独占禁止法上の問題につながる可能性があることが示されている。
共同保険の案件では、
契約者が決定したこと
保険会社が判断したこと
代理店が提案・調整したこと
を区別できているか確認したい。
これまで慣行として代理店が調整してきた業務ほど、「誰が何を決めているのか」を一度棚卸しする必要がある。
7.なぜ共同保険にするのか、案件ごとに説明できるか
位置づけ:改正案に直接記載
主な対象:共同保険を扱う保険会社・代理店
改正案では、共同保険を提案・組成する場合、その具体的な必要性を検証することが示されている。
共同保険そのものが問題ということではない。
重要なのは、
「前年も共同保険だったから」
という理由だけで今回も同じ形を選んでいないかだ。
今回の契約について、
なぜ共同保険にする必要があるのか
単独引受ではなく共同保険を選ぶ理由は何か
を案件ごとに検証し、その判断経緯を後から説明できる状態にしておきたい。
8.「代理店の意向」と「契約者の意向」を区別できているか
位置づけ:改正案に直接記載
主な対象:法人契約を扱う代理店
契約者と代理店の意思の混同は、企業内代理店だけの問題ではない。
法人契約では、代理店が保険会社との窓口になることが多い。
そのため、
「お客さまはこの条件を希望しています」
という連絡が、本当に契約者の意思を確認したものなのか、それとも代理店側の提案・判断なのかが曖昧になる可能性がある。
例えば記録上、
「契約者○○社の△△部××氏から、○月○日に以下の意向を確認」
と残しておけば、後から見ても誰の意思なのか分かりやすい。
特に電話や口頭で進むことの多い法人契約では、意思確認の証跡をどのように残すか決めておきたい。
9.保険料に関する依頼をするとき、判断材料となる情報を整理しているか
位置づけ:編集部による実務上の確認ポイント
直接の対象:損害保険会社
企業向け損害保険の料率管理については、今回の改正案で直接管理態勢を求められているのは損害保険会社側である。
代理店に新たな料率管理義務を課す記載ではない。
損害保険会社については、割引・割増等を行う場合に、危険度や事業費等の合理的な根拠に基づいて保険料を設定し、その内容や根拠を記録・保存し、事後的に検証できる管理態勢を整えることが示されている。
代理店側で確認しておきたいのは、保険会社へ単に
「もう少し安くしてほしい」
と依頼するのではなく、引受判断や料率設定に必要となる情報を各社のルールに沿って正確に提供できているかという点だ。
必要な情報は保険会社や保険種類によって異なる。
代理店独自の判断で運用を決めるのではなく、所属保険会社の引受ルール等を確認したい。
10.確定版が出たときに見直す社内文書を把握しているか
位置づけ:編集部による実務上の確認ポイント
主な対象:今回の改正に関係する代理店
現時点で公表されているのは改正案である。
したがって、今すぐすべての社内規程を書き換える段階ではない。
一方で、
法人契約の見積もりフロー
共同保険の手順書
競争関連情報の取扱規程
契約者意思の確認方法
特定契約の管理方法
内部監査規程
募集人向け研修資料
など、今回の改正によって見直しが必要になる可能性のある文書を先に洗い出しておくことはできる。
確定した監督指針が公表された際に、改正案との差分を確認し、必要な部分を速やかに更新できる状態にしておきたい。
実務で残したいのは「誰が・何を・なぜ」
今回の改正案を踏まえて法人案件の記録方法を見直す場合、編集部としては少なくとも次の視点を確認したい。
契約者の意思
誰が、いつ、どの立場で、何を判断・指示したのか。
競争関連情報の取扱い
どの情報を、誰に、どのような判断のもとで伝えたのか。
共同保険とした理由
なぜ今回の案件を共同保険とする必要があると判断したのか。
保険会社へ提供した情報
引受判断などに必要な情報として何を提供したのか。
これは金融庁が指定している記録様式ではない。
今回の改正案を踏まえ、INSURANCE JOURNAL編集部が実務上の確認ポイントとして整理したものだ。
具体的にどの情報を、どの形式で、どの期間保存する必要があるかについては、確定した監督指針や所属保険会社の規程等を確認する必要がある。
別個登録も廃止へ
今回の改正案では、損害保険代理店の「別個登録」の廃止も示されている。
現在は一定の場合に、代理店の従たる事務所を主たる事務所とは別個に登録することが認められている。
金融庁は、同一法人でありながら事務所ごとに異なる損害保険会社から教育・管理・指導を受ける業務運営について、代理店ガバナンスの統一性や顧客本位の業務運営の観点から問題が生じる可能性を指摘している。
別個登録を利用している代理店では、今後公表される確定版と適用開始時期を確認する必要がある。
※本稿は2026年10月6日時点で金融庁が公表している「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正案、新旧対照表等に基づいて整理したものです。改正案は確定版ではなく、今後内容が変更される可能性があります。また、本稿の10項目にはINSURANCE JOURNAL編集部が実務上の確認ポイントとして整理した内容が含まれており、法令・監督指針上の義務を一律に示すものではありません。個別案件については、確定した監督指針、所属保険会社の規程・指示、必要に応じて専門家等へ確認してください。
参考資料
金融庁
「『保険会社向けの総合的な監督指針』の一部改正(案)の公表について」
2026年9月11日
金融庁
「保険会社向けの総合的な監督指針 本編」の一部改正(案)(新旧対照表)
INSURANCE JOURNAL関連記事
「企業内代理店規制を再構築へ 金融庁が監督指針改正案、特定契約比率・独禁法遵守態勢・別個登録を見直し」
情報源
- 官公庁・業界団体 「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)の公表について →
- 官公庁・業界団体 (別紙1)「保険会社向けの総合的な監督指針 本編」の一部改正(案)(新旧対照表) →
- 官公庁・業界団体 (別紙2)「保険会社向けの総合的な監督指針 本編」の一部改正(案)の概要 →
本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による解説・分析です。制度・商品の詳細は公式発表をご確認ください。
