保険金請求の画像もAIで確認 東京海上日動が始めた「加工・使い回し」検知とは
東京海上日動は2026年9月30日、火災保険の保険金請求で提出される画像について、生成AIによる作成・加工が疑われる特徴を検知する機能を追加し、9月より運用を開始すると発表した。7月からは同一・類似画像の使い回し検知も導入済み。AI等による検知と担当者による確認・判断の流れを整理する。
目次
東京海上日動火災保険は2026年9月30日、火災保険の保険金支払業務における不正請求検知を高度化するため、保険金請求時に提出される画像データについて、生成AIによる作成・加工が疑われる特徴を検知する機能を追加し、2026年9月より運用を開始すると発表した。
これに先立ち、複数の保険金請求で同一または類似する画像が利用されている可能性を検知する機能は、2026年7月から先行導入している。
今回の仕組みで重要なのは、AI等による検知結果だけで「不正請求」と判断したり、保険金を支払うかどうかを機械的に決定したりするものではないという点だ。
東京海上日動は、AI等によって抽出された情報について、事案ごとの状況を確認する際の参考情報として活用し、最終的な判断は従来どおり同社担当者が行うと明記している。
保険金請求の確認工程に今回何が加わったのか。AI等による検知と、担当者による確認・判断を分けて整理する。
保険金請求時の「画像データ」も確認対象に
東京海上日動は、保険金請求手続きにおける顧客の利便性向上に向け、事故状況を示す写真や見積書などをデータで提出できる環境の整備を進めてきた。
同社は今回の発表で、こうしたデジタル化によって手続きの利便性が高まる一方、画像編集ソフトによる写真の改ざんに加え、生成AIの普及によって高精度な画像の作成や加工も容易になっていると説明している。
また、保険金請求に関与する事業者などによる不適切な請求が社会問題となる中、デジタル技術を悪用した不正請求の手口が今後さらに巧妙化することを懸念しているとしている。
そこで今回、事故受付時の申告内容や対応記録、請求書類などに加え、保険金請求時に提出される画像データを多角的に確認する仕組みを追加した。
画像に関する機能は、大きく二つに整理できる。
生成AIによる「作成・加工が疑われる特徴」を検知
一つ目が、生成AIによる作成・加工が疑われる画像の検知だ。
東京海上日動によると、保険金請求時に提出された画像データについて、
- 画像の物理的・視覚的な特徴情報
- 機械学習モデルによるスコアリング
などを組み合わせ、生成AIによる作成・加工等が疑われる特徴を検知する。
ここで注意したいのは、「この画像は生成AIで作られた」とシステムが確定する仕組みとは説明されていないことだ。
公表資料で示されているのは、あくまで生成AIによる作成・加工等が疑われる「特徴」を検知するという仕組みである。
不自然な画像の兆候を早期に把握し、担当者による確認や調査につなげる。
過去の請求と比較し、同一・類似画像の可能性を検知
もう一つが、複数の保険金請求における画像の使い回し検知だ。
こちらは2026年7月から先行導入されている。
保険金請求時に提出された画像データを過去の保険金請求情報と比較し、複数の保険金請求で同一または類似する画像が利用されている可能性を検知する。
東京海上日動は、この機能によって不自然な請求の早期把握につなげるとしている。
ただし、同一または類似する画像が検知されたこと自体をもって、不正請求と確定する仕組みではない。
検知によって抽出された情報は、担当者が事案ごとの状況を確認する際の参考情報として使用される。
AIが支払い可否を決める仕組みではない
今回の取り組みを理解するうえで、最も重要なのが「検知」と「判断」を分けることだ。
東京海上日動は、今回の仕組みによる検知結果について、
「保険金のお支払い可否を機械的に決定するものではありません」
と明記している。
AI等によって抽出された情報は、事案ごとの状況を確認する際の参考情報として活用する。
そのうえで、最終的な判断は従来どおり同社担当者が行う。
今回公表された内容をもとに流れを整理すると、次のようになる。
保険金請求画像の確認フロー
保険金請求時に画像データを提出
↓
画像データを解析
- 生成AIによる作成・加工等が疑われる特徴
- 過去の保険金請求との同一・類似画像の可能性
を検知
↓
抽出された情報を担当者が確認
事案ごとの状況を確認する際の参考情報として活用
↓
必要に応じて確認・調査
不自然な画像や追加確認が必要な案件について、適切な確認・調査につなげる
↓
最終的な判断は担当者
検知結果だけで保険金の支払い可否を機械的に決定しない
つまり、今回追加された画像検知機能は、保険金支払いの判断そのものをAIに置き換えるものではない。
AI等による検知結果を担当者の確認・調査に利用し、最終的な判断は人が行う仕組みとなっている。
2022年からAIによる不正請求の早期検知に取り組む
東京海上日動によるAIを活用した不正請求対策は、今回初めて始まったものではない。
同社は2022年、フランスのAIインシュアテック企業Shift Technologyと連携し、火災保険における不正請求の早期検知の仕組みを開発した。
2022年6月の発表では、
- 契約内容
- 事故の申告状況
- 気象情報などの外部データ
を組み合わせてAIが分析し、保険金の支払い手続きに際して詳細な事実確認が必要となる事案を早期に検知する仕組みを公表している。
事案ごとにスコアリングを行い、担当者がスコアやその構成要素を参考にして、具体的な対応に活用するものだ。
同社は、この仕組みを2022年8月から全国の事故対応拠点で活用するとしていた。
2023年には請求書類の確認にも対象を拡大
東京海上日動は今回の発表で、2023年からは請求書類などのドキュメントデータについても、記載内容や添付資料の整合性・妥当性などを確認する仕組みを導入していることを明らかにしている。
これまでの取り組みを整理すると、確認に利用される情報は段階的に広がってきた。
契約・事故に関する情報
契約内容や事故の申告状況などを確認する。
外部データ
気象データなどの外部情報も活用する。
請求書類などのドキュメントデータ
記載内容や添付資料の整合性・妥当性などを確認する。
保険金請求時の画像データ
今回追加された領域で、生成AIによる作成・加工が疑われる特徴や、過去の請求情報との同一・類似画像の可能性を検知する。
今回の画像検知は、それまで活用していた情報に画像データという確認対象を追加したものと整理できる。
「生成AI画像を見破るシステム」とは書けない
今回の発表では、生成AIによって作られた画像への対応が含まれているため、「AI生成画像を見破るシステム」と表現したくなる。
しかし、公表内容はそこまで踏み込んでいない。
東京海上日動が説明しているのは、
生成AIによる作成・加工等が「疑われる特徴」を検知する
という仕組みだ。
今回の発表資料では、
- 検知精度
- 誤検知率
- 対応する生成AIの種類
- 検知件数
- 実際に不正請求と確認された件数
- 導入による不正請求削減効果
などの具体的な数値は示されていない。
したがって、
「AI生成画像をすべて見破れる」
「画像が本物か偽物かをAIが自動判定する」
「不正請求をAIだけで判断できる」
といった説明は、公表された情報の範囲を超える。
確認できるのは、生成AIによる作成・加工等が疑われる特徴を検知し、担当者による適切な確認・調査につなげる仕組みが導入されたという点までだ。
「画像の使い回しを検知=不正確定」でもない
画像の使い回し検知についても同様だ。
システムが検知するのは、複数の保険金請求で同一または類似する画像が利用されている可能性である。
同じ画像や類似画像が検知されたことだけで、不正請求と判断する仕組みではない。
検知結果は担当者が状況を確認する際の参考情報として使われ、必要な確認や調査につなげる。
したがって、
検知
↓
担当者による確認
↓
必要な確認・調査
↓
最終判断
という各工程を分けて理解する必要がある。
不正請求対策と保険金支払業務の品質向上
東京海上日動は、今回の仕組みについて、不正請求対策の強化とともに、保険金支払業務の迅速化・品質向上につなげるとしている。
不自然な請求や追加確認が必要な案件の兆候を早い段階で把握し、必要な確認や調査に早期に着手することが狙いだ。
2022年に火災保険向けのAI活用を公表した際にも、同社は、不正請求の可能性が高い事案にはより慎重に対応する一方、正しく請求された事案については、より顧客に寄り添った対応を行う考えを示していた。
AIを活用した検知は、保険金支払いの最終判断を置き換えるのではなく、担当者が事案に対応する際に利用する情報を提供する仕組みとして位置付けられている。
デジタル化した請求に「画像確認」を追加
東京海上日動は、事故状況を示す写真や見積書などをデータで提出できる環境整備を進めてきた。
これまでに、
契約内容・事故申告
+気象などの外部データ
+請求書類等のドキュメントデータ
を活用した確認を進め、今回さらに、
+保険金請求時の画像データ
を確認対象として加えた。
画像については、
生成AIによる作成・加工等が疑われる特徴
と、
過去の保険金請求との同一・類似性
という観点から検知を行う。
東京海上日動は、この仕組みによって、不自然な請求や追加確認が必要な案件の兆候をより早期に把握し、必要な確認や調査に早期に着手するとしている。
デジタルで効率化する領域と、人が対応する領域
東京海上日動は今後について、AIやデータ分析技術などを活用しながら、不正請求対策の高度化と損害サービス品質の向上に取り組むとしている。
同時に、
「デジタルで効率化できる領域」と「当社担当者が丁寧に対応すべき領域」を適切に組み合わせる
という方針も示した。
今回の画像検知は、その役割分担が分かりやすい。
AI等を活用した仕組みによって、生成AIによる作成・加工が疑われる特徴や、同一・類似画像が利用されている可能性を検知する。
その情報を担当者が参考にし、必要な確認や調査を行う。
そして、保険金支払いの最終判断は担当者が行う。
今回の発表で確認できるのは、「AIが不正請求を判断するようになった」ということではない。
保険金請求時に提出される画像についてもデータを活用した検知を行い、不自然な画像の兆候を早期に把握して、人による確認・調査につなげる仕組みを追加したということだ。
AI等による検知と、人による確認・判断。
その役割を分けて運用している点が、今回の取り組みを理解するうえで重要になる。
主な参照資料
- 東京海上日動火災保険株式会社「火災保険におけるAIを活用した不正請求対策の高度化 ~生成AIによる加工画像や画像の使い回し等を検知する機能を導入~」(2026年9月30日)
- 東京海上日動火災保険株式会社「AIを活用した火災保険における不正請求の早期検知の取組み」(2022年6月15日)
※本記事は2026年10月2日時点で東京海上日動が公表している資料をもとに整理しています。今回公表された画像検知機能について、検知精度、誤検知率、検知件数、不正請求削減効果などの具体的な数値は発表資料では示されていません。また、検知結果のみで保険金支払いの可否を機械的に決定する仕組みではなく、AI等によって抽出された情報を参考情報として活用し、最終的な判断は同社担当者が行います。
本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による解説・分析です。制度・商品の詳細は公式発表をご確認ください。
