損保ジャパン、転居転勤に「本人同意」を導入 大手損保の勤務地制度はどう変わっているか
損保ジャパンは2026年10月1日から、転居を伴う転勤について社員が毎年意向を申告する制度へ移行する。東京海上日動、あいおいニッセイ同和損保でも本人の意向を反映する制度が導入されている。一方、三井住友海上のキャリア採用では「転居可・転居不可」の区分を設定。
目次
損保ジャパンは2026年10月1日から、転居を伴う転勤について社員が毎年意向を申告する制度へ移行する。東京海上日動、あいおいニッセイ同和損保でも本人の意向を反映する制度が導入されている。一方、三井住友海上のキャリア採用では「転居可・転居不可」の区分を設定。各社の公開情報から勤務地制度の違いを整理する。
損保ジャパンは2026年10月1日付で、「本人同意に基づく転居転勤運用」を開始する。
従来は、入社時に選択した「限定なし」「ブロック限定」「地域限定」という勤務地の範囲に応じて会社が異動運用を行ってきた。今回、このフィールド制度を廃止し、社員が転居を伴う転勤について毎年意向を申告する仕組みに切り替える。
選択肢は、
転勤に同意する(全国)
転勤に同意する(ブロック)
転勤に同意しない
の3つだ。
会社は申告内容に基づき、翌年度の異動運用を検討する。
つまり、本人が転勤に同意したからといって、必ず転居を伴う異動が行われるわけではない。逆に、「転勤に同意しない」という選択肢を毎年選べることが今回の大きな変更点になる。
ただし、この制度を「損保ジャパンが全国転勤を廃止した」と捉えるのは正確ではない。
同社は、転居を伴う転勤について、多様な経験を持つ人材の育成や組織活性化への貢献など「意義ある仕組み」であり、今後も重要な役割を担うとしている。
変わるのは、転居転勤という仕組みそのものではなく、社員本人の意向を異動運用にどう組み込むかである。
損保ジャパンは「住居本拠地」と毎年の転勤意向を組み合わせる
新制度では、社員が「住居本拠地」を1カ所登録する。
損保ジャパンは、住居本拠地を「生活の拠点かつ転居なく働ける場所」と説明している。そのうえで転勤意向を毎年1回申告し、会社がその内容に基づいて翌年度の異動運用を検討する。
これまでのように、入社時に設定した勤務地フィールドを長期間の前提とする制度から、ライフステージやキャリアに応じて転居転勤への意向を定期的に変更できる制度へ移る。
同時に、損保ジャパンは「地域による処遇差を解消」し、働く地域ではなく、社員が担う役割と貢献度に応じた処遇体系へ移行するとしている。
ただし、「勤務地にかかわらず、すべての給与が完全に同じになる」という意味ではない。
転居転勤への同意や、実際の転居を伴う異動については、別途手当や一時金が設定される。
「転勤しないと減額」ではなく、同意・転居に対して手当
損保ジャパンが公表した主な制度は次の通りだ。
| 制度 | 公表内容 |
|---|---|
| 転勤手当 | 月額5万~10万円 |
| 転勤一時金 | 20万円 |
| 転勤同意手当 | 月額2.5万~4.5万円 |
| 赴任支度金 | 夫婦・子ども2人(小学生)の場合50万円 |
| 単身赴任手当 | 月額3万円 |
| 帰省サポート手当 | 年12回の帰省費用相当額 |
| その他 | 社宅等 |
注目されるのは、実際に転居した社員だけでなく、**転居転勤に同意する社員を対象とした「転勤同意手当」**を設けることだ。
同社はこれらを、積極的な転居転勤へのチャレンジに対するインセンティブや、転居に伴う経済的・心理的負担を軽減するための仕組みと位置付けている。
したがって、
「転勤しない社員の給与を下げる制度」
と説明するのは適切ではない。
公表資料から確認できるのは、地域による処遇差を解消する一方、転勤への同意や実際の転居に対して、別途手当等を設ける制度設計である。
東京海上日動も2026年4月の人事制度改定で「本人同意」を導入
東京海上日動も、2026年4月の人事制度改定として、転居を伴う転勤について本人同意を前提とする仕組みを公表している。
同社の採用情報では、全国各地域で行っていた「エリア総合職」の募集を廃止し、募集職種を総合職に一本化。採用地域にかかわらず、全社員を同一の処遇体系・評価制度とすると説明している。
ここで注意したいのは、単純に「既存のエリア総合職という社員区分をすべて廃止した」と読み替えないことだ。
公開情報で確認できるのは、採用上のエリア総合職募集を廃止し、募集職種を総合職へ一本化したことと、新制度の下で全社員に同一の処遇体系・評価制度を適用するという内容である。
転居転勤については、総合職全員が「本拠地」を定め、毎年、転居転勤への同意有無を選択する。
同意する場合には、
国の内外を問わない
本拠地を含む一定地域内
のいずれかを選ぶ。
転居転勤に同意した社員についても、全員が実際に転勤するわけではない。本人のキャリアビジョンや適性を踏まえ、会社が人事異動を検討する仕組みである。
また、東京海上日動は、転居転勤に同意しなかったことや本拠地・本拠地地域によって、評価や昇給に影響することはないと採用サイトで説明している。採用選考についても、転居転勤への同意有無や範囲は選考に影響しないとしている。
一方、同意した社員が希望する特定都市への異動を保証する制度ではない。
「国内外問わず」「一定地域内」という範囲を選択する仕組みであり、東京など特定勤務地をピンポイントで指定する制度ではない。
あいおいニッセイ同和損保は2023年10月に制度改定
あいおいニッセイ同和損保は、2023年10月に人事制度を改定した。
それまで転居可能な範囲に応じて設定していた、
全域型
広域型
地域型
の社員区分を「基幹社員」に統合し、社員本人が転居を伴う人事異動の可否を毎年選択できる仕組みを導入した。
同社は制度改定の目的について、
本人の希望に沿わない転居を無くす
ことを明記している。
現在の人的資本に関する情報でも、毎年「転居を伴う異動あり・なし」を選択できる制度として紹介されている。
一方で、転居を伴う異動そのものをなくしたわけではない。
同社は、転居を伴う異動や社内公募制度などを、社員に多様な経験を提供し、チャレンジ意欲のある人材の活躍領域を広げる仕組みとして位置付けている。
したがって、同社についても「全国転勤廃止」という表現より、転居の可否を固定された社員区分から本人が毎年選べる仕組みに変更したと説明する方が正確だ。
三井住友海上は「キャリア採用」で転居可・転居不可を明示
三井住友海上については、他3社とは情報の性質が異なるため、同じ制度として単純比較しない方がよい。
2026年9月時点で、同社のキャリア採用ページに明示されている社員区分では、
| キャリア採用の社員区分 | 転居転勤の取扱い |
|---|---|
| プロフェッショナル社員(転居可) | 国内外を問わず転居を伴う異動 |
| プロフェッショナル社員(転居不可) | 原則として転居を伴う異動なし。ただし本人同意に基づき、地域を限定した転居転勤を行う場合あり |
となっている。
ここから、
「三井住友海上の全社員が転居可・転居不可の2区分になっている」
とまでは断定できない。
今回確認できる公開情報は、同社のキャリア採用で示されている社員区分・条件だからだ。
三井住友海上は2025年4月から「スキル型人事制度」を開始し、ポストチャレンジなどを通じて社員自身がキャリア形成に関与する方向も打ち出している。
そのため、本記事では他3社と同じ「毎年、転居転勤への同意を選択する制度を導入した会社」とは位置付けず、キャリア採用において転居可・転居不可を明示している例として扱う。
4社は同じ制度ではない
各社の公開情報を整理すると、次のようになる。
| 会社 | 公表情報から確認できる主な仕組み |
|---|---|
| 損保ジャパン | 2026年10月から、毎年「全国・ブロック・非同意」を申告 |
| 東京海上日動 | 2026年4月の制度改定で、毎年、転居転勤の同意有無と同意範囲を選択 |
| あいおいニッセイ同和損保 | 2023年10月の制度改定で基幹社員へ統合し、転居異動の可否を毎年選択 |
| 三井住友海上 | キャリア採用で「転居可・転居不可」を設定。転居不可でも本人同意による限定的転居の可能性あり |
つまり、
「大手損保4社が一斉に全国転勤を廃止した」
わけではない。
また、
「4社が同じ本人同意制度を導入した」
わけでもない。
確認できるのは、勤務地や転居転勤を固定的な社員区分だけで管理するのではなく、本人の意向や選択を制度に反映する会社が出ていることである。
本人同意は「勤務地を自由に選べる」という意味ではない
今回の制度を読むうえで、もう一つ誤解しやすい点がある。
「転居転勤に本人同意が必要」ということと、「社員本人が好きな勤務地を選べる」ということは同じではない。
損保ジャパンは、本人の申告内容に基づいて会社が翌年度の異動運用を「検討」するとしている。
東京海上日動も、同意社員についてキャリアビジョンや適性を踏まえて転居転勤を伴う人事異動を検討するとしており、特定の勤務地をピンポイントで指定できる制度ではない。
つまり会社側には、引き続き人員配置を考える役割がある。
変化しているのは、その配置判断の中に、本人の転居可否という意思を制度的に取り込むことだ。
「転勤を拒否できる制度」だけでもない
損保ジャパンの制度では、転居転勤に同意する社員や、実際に転居する社員に対して手当等を設ける。
東京海上日動も、実際に転居転勤が実現した社員に「転居転勤サポート手当」を支給する制度としている。
この点を見ると、制度変更は「転勤をしなくてもよくする」だけではない。
転居を伴う経験を人材育成の一つの選択肢として残しながら、その負担や意思決定を処遇・制度の中で明示する動きでもある。
ただし、各社が同じ考え方や同じ手当体系を採用しているわけではない。
入社時に決めた勤務地範囲を固定し続けない
損保ジャパン、東京海上日動、あいおいニッセイ同和損保の制度に共通して見えるのが、入社時などに設定した勤務地範囲を長期間固定する考え方の見直しだ。
転居できるかどうかは、働く期間の中で変わる。
結婚、育児、家族の介護、配偶者の仕事などによって、一時的に転居が難しくなることもある。一方、別の時期には、異なる地域や業務を経験したいという希望が生まれる場合もある。
毎年意向を確認する仕組みは、そうした変化を人事制度の中に取り込む一つの方法と見ることができる。
ただし、制度が存在することと、希望するキャリアが必ず実現することは別だ。
実際の配置では、本人の意向に加えて、会社の人員配置、適性、ポスト、業務上の必要性なども関係する。
「全国型・地域型」とキャリアの関係も見直し
勤務地制度の変更は、福利厚生だけの話ではない。
東京海上日動は、採用職種を総合職へ一本化し、採用地域にかかわらず全社員を同一の処遇体系・評価制度とするとしている。
あいおいニッセイ同和損保も、「全域型」「広域型」「地域型」を基幹社員へ統合した。
損保ジャパンも、従来の勤務地フィールドを廃止し、地域による処遇差を解消するとしている。
これらの制度変更からは、勤務地の広さそのものと処遇・キャリアを強く結び付けてきた仕組みを見直す動きが確認できる。
ただし、制度変更後に実際の配置、昇進、キャリア機会がどの程度変化するかは、公表された制度だけから判断することはできない。
ここは制度設計と、その後の運用を分けて見る必要がある。
今後見るべきなのは「制度」だけでなく「運用」
本人同意制を導入したからといって、その効果が自動的に決まるわけではない。
今後確認したいのは、転居転勤に同意しない社員にも幅広いキャリア機会が確保されるのか、毎年の申告が実際に柔軟に変更できるのか、本人の希望と会社の配置ニーズをどのように調整するのか、といった運用面だ。
転居を伴わなくても、部門横断の異動や社内公募などによって、どこまで経験機会を広げられるかも論点になる。
一方、全国や海外を含む転居転勤を希望する社員に対しては、その経験をキャリア形成につなげる仕組みと、生活上の負担を支える制度の双方が必要になる。
各社の制度が実際の人材配置や採用、定着、キャリア形成にどのような影響を与えるかは、今後の運用を見る必要がある。
「全国転勤の終わり」ではなく、本人の意思を制度に組み込む動き
損保ジャパンが10月1日から始める「本人同意に基づく転居転勤運用」は、転居転勤そのものをなくす制度ではない。
同社は転居転勤の人材育成上の意義を認めたうえで、社員が毎年「全国」「ブロック」「非同意」を申告する仕組みへ変更する。
東京海上日動では、2026年4月の制度改定として、転居転勤の同意有無と範囲を毎年選ぶ仕組みが示されている。
あいおいニッセイ同和損保では、2023年10月の制度改定によって、転居可否を毎年選択できるようになった。
三井住友海上については、少なくともキャリア採用情報上、「転居可」「転居不可」という選択肢が明示されている。
制度は各社で異なる。
今回確認した各社では、転居を伴う異動の仕組みそのものは残されている。
その一方で、損保ジャパン、東京海上日動、あいおいニッセイ同和損保では、転居を伴う働き方について本人の意思を定期的に確認する仕組みが明示されている。
会社の人員配置と、社員のライフステージやキャリア観をどのように両立させるのか。
今回の損保ジャパンの制度改定は、大手損保がそのバランスを改めて設計している一例として見るのが適切だろう。
主な参照資料
損害保険ジャパン「人事制度改定の実施 ~『本人同意に基づく転居転勤運用』の開始~」(2026年9月24日)
東京海上日動「新人事制度の導入について」
あいおいニッセイ同和損保「2023年10月より人事制度を改定」(2023年7月6日)
三井住友海上「キャリア採用 よくあるご質問」「キャリア採用募集要項」
※本記事は2026年9月28日時点で各社が公表している資料・採用情報をもとに整理しています。各社で制度の対象者、転居転勤の定義、本人意向の確認方法、勤務地、手当、処遇等は異なります。また、三井住友海上について本記事で参照している「転居可・転居不可」は、同社のキャリア採用情報で確認できる区分であり、全社員に同一の区分が適用されていることを示すものではありません。本記事は、大手損保が一律に全国転勤を廃止した、または同一の人事制度へ移行したことを示すものではありません。
本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による解説・分析です。制度・商品の詳細は公式発表をご確認ください。



