特集 解説

FSB、金融機関のAI活用に「12の実務慣行」 保険金支払・引受査定・代理店支援で何を管理するか

FSB、金融機関のAI活用に「12の実務慣行」 保険金支払・引受査定・代理店支援で何を管理するか

金融機関によるAI活用について、国際的な実務慣行をまとめた報告書が公表された。金融安定理事会(FSB)は2026年10月15日、最終報告書「AIの責任ある導入に関する健全な実務慣行」を公表。経営陣の監督、AIの説明可能性、人間による関与、外部事業者への依存に伴うリスク管理など、12項目を提示した。報告書には、保険会社がAIを利用して引受関連業務を効率化した事例や、生成AIを保険金請求処理に導入する際の管理方法、AIエージェントの権限管理に関する事例も掲載されている。新たな法的義務を課すものではないが、AIを業務に組み込む際に何を確認すべきか。保険会社・代理店の実務との接点を整理する。

目次
  1. FSBがAIの責任ある導入に向けた「12の実務慣行」を公表
  2. 12の実務慣行は「組織全体の管理」と「AIのライフサイクル管理」の2分野
  3. 保険会社の事例に見るAIの活用と管理
  4. 引受関連の予備的評価書、AIが約45秒で草案を作成 大手保険会社の事例
  5. 保険金請求への生成AI導入、人間の確認を前提に限定運用を計画
  6. AIエージェントの導入では、出力だけでなく「実行できる操作」の管理が重要になる
  7. 保険募集・代理店支援でAIを利用する際の論点
  8. 外部AIサービスを利用する場合、何を管理するか
  9. 金融庁・IAISもAIの管理を議論 日本の保険業界との関係
  10. AIを導入・運用する際に確認したいこと
  11. AIの利用拡大で問われる、業務への組み込み方と管理責任

FSBがAIの責任ある導入に向けた「12の実務慣行」を公表

金融安定理事会(Financial Stability Board、FSB)は10月15日、最終報告書「Sound Practices for Responsible Adoption of Artificial Intelligence (AI)」を公表した。

FSBは、金融システムの安定に関する国際的な議論を調整し、各国の金融当局や国際基準設定主体などの連携を進める組織だ。

今回の報告書は、金融機関がAIを導入・利用する際に参考となる12の実務慣行をまとめたもの。2026年6月に公表された市中協議案に寄せられた意見を踏まえ、最終化された。

日本の金融庁も10月16日、FSBによる最終報告書の公表を案内している。

報告書が対象とするAIは、従来型の機械学習に限らない。

文章の作成や情報の要約を行う生成AIに加え、外部システムやツールを利用しながら複数の業務を進める「エージェント型AI(Agentic AI)」についても、管理上の論点を取り上げている。

FSBが重視しているのは、AIの導入によって得られる業務効率化や顧客サービスの改善と、利用に伴って生じるリスクの双方を把握することだ。

金融機関によるAI活用が広がれば、判断過程が分かりにくいモデルの利用、誤った出力の業務への反映、外部事業者への依存、サイバーセキュリティ上の問題などにも対応する必要がある。

一方、AIの利用を過度に制限すれば、生産性の向上や不正検知などの機会を十分に生かせない可能性もある。

今回の12項目は、こうした機会とリスクを踏まえ、金融機関が既存の経営管理・リスク管理態勢にAIの管理を組み込むための参考となる。

新たな法規制ではない

最初に確認しておきたいのは、今回の報告書の位置付けだ。

FSBは、12の実務慣行について、金融機関がそれぞれの状況に応じて活用できる実務的な枠組みであり、拘束力のある国際基準ではないことを明記している。

特定のAI技術やシステムの導入を義務付けるものでもない。

したがって、今回の公表によって、日本の保険会社や保険代理店に新たに12項目すべての遵守義務が課されたわけではない。

一方、AIを利用する金融機関には、従来から適用される法令や規制への対応が必要である。

FSBの実務慣行を参考にしたことによって、国内法令上の義務が免除されるものでもない。

新しいAI専用の規制が設けられたという理解ではなく、既存の管理態勢の中でAIの特性をどのように扱うかを整理した報告書と捉えるのが適切だ。


12の実務慣行は「組織全体の管理」と「AIのライフサイクル管理」の2分野

FSBの12項目は、大きく二つのグループに分かれる。

第1から第4までが、経営陣の関与や組織全体のガバナンスに関するもの。

第5から第12までが、AIの選定、開発、導入、運用、監視、外部事業者管理など、AIのライフサイクル全体に関するものだ。

原文の内容を要約すると、次のようになる。

番号実務慣行主な内容
1戦略的方向性と監督経営戦略、事業モデル、リスク許容度とAIの活用方針を整合させる
2ガバナンスと説明責任AIに関わる役割、責任、管理体制を明確にする
3リスク管理への組込みと利用記録既存のリスク管理態勢にAI固有のリスクを組み込み、利用状況を文書化する
4組織の適応力AI技術の進化に合わせて管理態勢や人材・能力を見直す
5重要性・リスク評価AIの用途ごとに、導入時および運用中のリスクと重要性を評価する
6AIの選定業務目的、技術要件、リスクを踏まえてAIモデル・システムを選ぶ
7データガバナンスAIに利用するデータの正確性、完全性、一貫性、安全性などを管理する
8説明可能性と透明性AIの判断を理解できる範囲と限界を把握し、必要に応じて補完的な管理策を講じる
9性能管理導入前のテストだけでなく、運用開始後も性能を評価・監視する
10人間による監督AIの自律性、複雑性、リスクなどに応じて、人間が適切に関与する
11サイバー・ICTリスク管理AIに関わるサイバー攻撃やシステム上のリスクに対応する
12外部AIサービスのリスク管理外部事業者の性能、透明性、データ品質、事業継続性、依存関係などを管理する

※FSB最終報告書の12項目をINSURANCE JOURNAL編集部が要約したもの。原文の全文訳ではない。

注目したいのは、AIの正確性を確認することだけが論点ではないという点だ。

AIを導入する目的、意思決定の責任者、業務上の位置付け、利用データ、外部事業者、障害発生時の対応など、通常の業務システムや委託先管理にも共通する事項が含まれている。

また、すべての用途に同じ管理方法を適用することを求めているわけでもない。

FSBは、金融機関の規模や複雑性、AIを利用する業務の重要性、リスクの程度に応じた対応を重視している。

例えば、社内文書の要約を補助するAIと、顧客に直接対応し、業務システムの操作まで行うAIとでは、必要となる管理の内容や程度が異なる。

こうしたリスクに応じた管理の考え方は、保険会社や代理店がAIを導入する際にも参考となる。


保険会社の事例に見るAIの活用と管理

FSBの報告書には、金融機関が実際に取り組んだAI活用事例や、導入を計画する際の管理方法が掲載されている。

以下では、そのうち保険業界に関係する三つの事例を取り上げる。

なお、これらはFSBの報告書に掲載された匿名の保険会社の事例であり、INSURANCE JOURNALが各社へ個別に取材・検証したものではない。

AI導入による効果や管理方法は、それぞれの企業の業務内容や利用環境に応じたものであり、他の保険会社でも同じ成果が得られることを示すものではない。

また、各事例は導入段階が異なるため、すでに運用している仕組みと、今後の限定導入を計画している仕組みを分けて紹介する。


引受関連の予備的評価書、AIが約45秒で草案を作成 大手保険会社の事例

FSBの報告書には、国際的に事業を展開する大手保険会社による業務効率化の事例が掲載されている。

同社は、グループ全体の手作業を見直し、AIを利用することで効率化が見込まれ、かつ管理可能な業務を選定した。

その結果、2025年には約40万件分の手作業による処理を削減したと報告している。

取り上げられた業務の一つが、引受関連の予備的な評価書の作成だ。

従来、営業担当者などから顧客情報を含むメールが送られると、引受部門が内容を確認し、予備的な評価書を作成していた。

この評価書は、正式な申込手続に進む前に、保険会社の候補を絞り込むための参考となるものだ。

報告書によると、こうした依頼は月に約4,000件あり、比較的単純な案件でも1営業日、複雑な案件では2~3営業日を要していたという。

AI導入後は、担当者からのメールを受け取ると、システムが顧客情報を自動的に分析し、引受部門が確認するための予備的な評価書の草案を生成する。

報告書では、この処理に要する時間が約45秒まで短縮されたと説明している。

ただし、約45秒という時間は予備的な評価書の草案生成に関するものであり、保険契約の最終的な引受可否をAIが45秒で判断するという意味ではない。

生成された草案は、引受部門による確認を前提としている。

また、約40万件分の手作業削減は、同社が全社的に取り組んだ業務効率化の数字であり、予備的評価書の作成業務だけで削減した件数ではない。

この事例は、AIによる情報処理の効率化と、人間による専門的な確認を組み合わせた運用の一例といえる。

保険業務にAIを導入する際には、書類作成や情報整理を効率化することと、引受条件や契約の可否について判断することを区別して設計する必要がある。


保険金請求への生成AI導入、人間の確認を前提に限定運用を計画

FSB報告書には、大規模言語モデル(LLM)を保険金請求の初期処理に導入する方針を決めた大手保険会社の事例も掲載されている。

同社が検討しているのは、顧客から提出された保険金請求に関する情報の初期処理や、担当者の業務を支援するためのAIシステムだ。

利用を予定しているLLMは、外部事業者が開発した基盤モデルである。

一方、同社はAIが誤った情報を生成する「ハルシネーション」や、出力が生成される仕組みを十分に説明できないことをリスクとして認識していた。

そこで、社内に蓄積された保険関連情報を参照しながら回答を生成するRAG(検索拡張生成)を採用する方針とした。

RAGは、AIが回答を生成する際に、あらかじめ指定された文書やデータベースなどから関連情報を取得し、その内容を参照させる仕組みだ。

保険業務では、商品情報、社内規程、事務手続などの資料をAIに参照させる用途が考えられる。

ただし、RAGを利用すれば誤った出力がなくなるわけではない。

検索された資料が適切でない場合や、AIが資料の内容を誤って解釈した場合には、出力に問題が生じる可能性がある。

AIが説明した「判断の過程」は、実際の処理と一致するとは限らない

同社は、AIに回答を導いた手順を説明させる機能も利用する方針だ。

しかし、FSB報告書では、AIが自然な文章で説明した推論過程が、実際の内部処理と一致しているとは限らない点に注意を促している。

AIがもっともらしい判断理由を提示できることと、その判断の根拠や処理過程を正確に検証できることは別である。

例えば、AIが保険金支払に関する説明文を生成し、参照資料や判断理由らしい文章を示したとしても、それだけで内容の正確性が保証されるわけではない。

参照した資料が適切か、個別の契約条件と整合しているか、必要な事情が欠けていないかを確認する必要がある。

この点を踏まえ、同社はLLMを利用する担当者を一部に限定し、専門知識を持つ人間が出力を確認したうえで業務に使用する計画としている。

また、AIの出力を顧客へ直接提供しない方針とし、利用範囲の拡大についても、追加のテストを実施した後に判断する予定だ。

担当者に対しては、AIへの入力方法や利用上の制限について研修を行うことも想定している。

これは限定的な導入を計画している事例であり、報告書の記述だけから、すでにすべての保険金請求業務でAIが稼働していると判断することはできない。

また、FSBがすべての保険金支払判断について、人間による最終決裁を新たに義務付けたものでもない。

この事例から読み取れるのは、AIの説明可能性に限界があることを前提として、利用範囲を限定し、人間による確認と段階的な検証を組み合わせる管理方法だ。


AIエージェントの導入では、出力だけでなく「実行できる操作」の管理が重要になる

今回の報告書で、生成AIに加えて取り上げられたのがエージェント型AIだ。

一般的な生成AIが質問への回答や文章の作成などを行うのに対し、エージェント型AIは、与えられた目的に沿って複数の処理を進めたり、外部システムやツールを利用したりする機能を持つ。

例えば、顧客から受け取った情報を整理し、業務システムに記録し、必要な資料を取得して担当者に処理結果を提示する、といった一連の業務を連携させることが考えられる。

ただし、エージェント型AIの自律性はシステムによって異なる。

利用者の承認を受けながら処理するものもあれば、あらかじめ定められた範囲内で複数の操作を自律的に進めるものもある。

保険会社がこうした仕組みを利用する場合には、回答の正確性だけでなく、AIに何を実行する権限を与えるかという問題が加わる。

FSBが紹介した生命保険会社の事例

FSB報告書には、生命保険会社が顧客向けの保険金請求処理にAIエージェントを導入した事例が掲載されている。

この保険会社は、保険金請求情報の受け付け、保存、初期的な評価、顧客への応答など、一部の手作業についてAIエージェントの利用を開始している。

当初は外部事業者が提供するAIエージェントの利用も検討したが、動作の透明性や管理可能性を重視し、自社で開発する方針を選んだという。

同社は導入に当たり、AIエージェントの識別、認証、アクセス権限、自律性の水準、実行できる処理、禁止事項、人間による承認などを定めた。

また、一つのAIエージェントで業務を進める方法と、複数のエージェントを組み合わせる方法を検討し、親となるエージェントを設けながら、子エージェントの利用を限定する構成を採用した。

テストで確認された権限外操作のリスク

同社が保護されたテスト環境で検証したところ、AIエージェントは不適切な指示によって、アクセス権限のないデータベースやシステムへの操作を試みる可能性があることが分かった。

特定のデータファイルの削除を試みたケースもあったという。

重要なのは、この事象がAIエージェントに不適切な操作をさせるよう誘導したテストの中で確認されたという点だ。

AIが通常運用中に自発的に暴走したと説明するのは正確ではない。

また、報告書は権限外の操作を試みたと説明しているのであり、実際の運用環境でデータが削除されたことや、顧客情報の漏えいが発生したことを示すものではない。

この検証を踏まえ、同社はアクセス権限を必要最小限に制限し、認可されていないデータベースへのアクセスを防ぐ仕組みを整えた。

本番環境では、AIエージェントの自律性を制限した状態で運用している。

各エージェントには識別情報を付与し、個々の操作や処理経緯を記録する。顧客の医療情報など、機微性の高い情報へのアクセスについては、人間による許可などを組み合わせて制御している。

さらに、操作履歴の継続的な監視や、担当者による定期的な確認、エージェントの動作を一時停止させて処理内容を検証する方法も採用している。

同社は、運用状況や想定外の問題をさらに検証するまで、AIエージェントが担当する業務の重要性や自律性を拡大しない方針としている。

この事例は、AIエージェントの管理が、生成された文章の正確性を確認するだけでは不十分であることを示している。

外部システムを操作できるAIでは、アクセス権限、実行可能な処理、人間による承認、操作履歴、緊急時の停止方法なども管理の対象となる。


保険募集・代理店支援でAIを利用する際の論点

FSBの12の実務慣行は、金融機関を主な対象としたものだ。

保険代理店に対して、12項目をそのまま適用する新たな法的義務を定めたものではない。

ただし、代理店がAIを利用して業務を効率化する際にも、参考となる点はある。

例えば、保険商品の比較表や顧客向け説明文の下書きに生成AIを利用する場合だ。

AIが文章や比較表を作成できたとしても、補償内容、保険料、免責金額、支払要件などが最新の正式な商品資料と一致しているかは、別途確認する必要がある。

複数の商品から顧客に提示する候補を整理する場合にも、どの情報をAIに与え、どのような条件で候補を抽出したのかを把握することが重要となる。

特に、保険募集における意向把握や比較推奨は、AIが文章を生成できることだけで適切性が担保されるわけではない。

実際の募集行為については、保険業法や関連する監督指針、保険会社の募集ルールなどに沿った対応が必要だ。

AIによって顧客の意向を整理することと、その意向に適した商品を選び、必要な説明を行うことは、それぞれ役割が異なる。

同様に、代理店が顧客からの問い合わせ対応にAIチャットボットを利用する場合には、AIが対応できる質問の範囲と、人間の担当者へ引き継ぐ条件を明確にすることが考えられる。

例えば、営業時間や必要書類の案内と、具体的な契約内容や保険金支払の可否に関わる問い合わせでは、必要な確認の程度が異なる。

また、顧客情報をAIへ入力する場合には、外部サービスへのデータ送信や保存、利用目的などの確認も必要になる。

ただし、ここで挙げた代理店業務への当てはめは、FSBが個々の保険代理店に特定の運用を指示したものではない。

報告書の考え方を参考に、INSURANCE JOURNAL編集部が整理した実務上の検討事項である。


外部AIサービスを利用する場合、何を管理するか

今回の12項目のうち、保険会社だけでなく、保険代理店やシステム事業者にも参考となるのが、第12項目の「外部AIサービスのリスク管理」だ。

企業が利用するAIは、必ずしも自社で開発したものとは限らない。

外部のクラウドサービス、生成AIサービス、業務システムに組み込まれたAI機能などを利用する場合もある。

FSBは、外部事業者への依存に伴うリスクとして、性能、透明性、データ品質、サプライチェーン、特定事業者への集中、事業継続性などを挙げている。

報告書では、外部AI事業者の選定に当たって適切な調査を行うことや、契約内容に監視・監査・情報アクセスなどに関する事項を含めることも例示している。

また、AIを前面に出して販売されていないソフトウェアやサービスであっても、内部にAI機能が組み込まれている場合があることにも注意を促している。

これは、すでに利用している業務システムに新たなAI機能が追加される場合にも参考となる視点だ。

例えば、顧客情報を扱うSaaSにAIによる自動要約機能が追加される場合、どのデータが処理され、外部サービスに送信されるのか、どのような利用条件が適用されるのかを確認する必要が生じ得る。

また、外部サービスが停止した場合に、それまでAIを利用していた業務をどのように継続するかという点も考慮したい。

ただし、外部AIサービスを利用すること自体が不適切というわけではない。

自社開発と外部サービスの利用には、それぞれ異なる利点とリスクがある。

重要なのは、外部事業者が提供するAIであっても、利用する業務の重要性や顧客への影響に応じた管理が必要になるという点だ。


金融庁・IAISもAIの管理を議論 日本の保険業界との関係

金融機関のAI利用に関する議論は、今回のFSB報告書だけではない。

金融庁は2025年3月、「AIディスカッションペーパー」を公表し、2026年3月3日には第1.1版を公表している。

第1.1版では、2025年6月から12月にかけて開催された「金融庁 AI官民フォーラム」で得られた知見などを踏まえ、AIの活用事例やリスク管理、ガバナンスの構築に向けた論点を整理した。

同ペーパーは、金融機関に新たな一律の対応義務を示すものではなく、今後の建設的な対話に向けた初期的な論点整理という位置付けだ。

一方、保険監督者国際機構(IAIS)は2025年7月、保険分野におけるAI監督に関するアプリケーション・ペーパーを公表している。

IAISの文書では、主に次の五つを取り上げている。

  • リスクに応じた監督と比例原則

  • ガバナンスと説明責任

  • システムの堅牢性、安全性、セキュリティ

  • 透明性と説明可能性

  • 公平性、倫理、救済手段

保険分野においては、AIによる保険料算出や引受査定、保険金支払などが、顧客に対する公平性や説明可能性にも関わる。

ただし、IAISの文書も、それ自体が日本の保険会社に対して直ちに新たな国内法上の義務を課すものではない。

FSB、IAIS、金融庁の文書は、それぞれ対象範囲や位置付けが異なる。

共通しているのは、AIの利活用を進める際に、技術上の性能だけでなく、経営管理、顧客への影響、リスク管理などを考慮する必要があるという点だ。


AIを導入・運用する際に確認したいこと

FSBの12の実務慣行を参考に、保険会社や代理店がAIの導入・運用を検討する際の確認事項を整理した。

利用する目的と範囲

  • AIを利用する業務と、期待する効果が明確になっているか。

  • AIが補助する業務と、実際の判断・実行まで担う業務を区別しているか。

  • 顧客への影響や誤処理時のリスクに応じて、利用範囲を検討しているか。

  • AIの導入・運用に関する責任者や担当部門が明確になっているか。

情報と出力の管理

  • 顧客情報など、AIに入力するデータの範囲を把握しているか。

  • AIが参照する資料の正確性や更新状況を確認できるか。

  • 出力に誤りがあった場合の確認・修正方法を定めているか。

  • AIが生成した説明と、実際に検証できる判断根拠を区別しているか。

  • 必要な説明や確認の経緯を後から把握できるか。

人間による関与と権限

  • AIの出力を誰が、どの段階で確認するかを整理しているか。

  • AIが誤った処理を行った場合に、人間が停止・修正できるか。

  • AIが外部システムを操作する場合、必要以上の権限を付与していないか。

  • AIの操作履歴や処理結果を確認できるか。

  • 権限外の操作や不適切な指示に対する検証を行っているか。

外部サービスと継続的な運用

  • 外部AIサービスに提供される情報や利用条件を確認しているか。

  • サービスの仕様変更や障害発生時の対応を想定しているか。

  • 導入時の評価だけでなく、運用開始後も性能や問題の発生状況を確認しているか。

  • 外部事業者への依存が、業務継続に与える影響を把握しているか。

これらはFSBの12項目を参考に、保険業務との接点を整理したものであり、すべての保険会社・代理店に同一の対応を義務付けるチェックリストではない。

必要な管理の内容と程度は、利用するAIの機能やリスク、扱う情報、業務の重要性、既存の法令や管理ルールなどによって異なる。


AIの利用拡大で問われる、業務への組み込み方と管理責任

AIの利用が広がる中、保険会社では引受査定、保険金請求処理、顧客対応、システム開発など、さまざまな業務で活用が検討・実施されている。

今回のFSB報告書にも、AIを利用した業務時間の短縮や、顧客対応の効率化を示す事例が掲載された。

一方、AIが生成した文章や判断結果の正確性、外部システムへのアクセス権限、利用者への説明、委託先への依存など、検討すべき事項も増えている。

特に、今回紹介された保険会社の事例からは、AIの用途によって管理の重点が異なることが分かる。

引受関連業務の事例では、予備的な評価書の草案作成を効率化しながら、人間による確認を残していた。

保険金請求処理へのLLM導入事例では、誤った出力や説明可能性の限界を踏まえ、利用する担当者を限定し、専門知識を持つ人間による確認を組み合わせる計画としていた。

AIエージェントの事例では、出力内容だけでなく、アクセス権限や実行できる操作、処理履歴の監視まで管理対象としていた。

いずれも、AIにどこまで業務を任せるのかという判断と、その判断に応じた管理態勢の整備が関係している。

今回の12の実務慣行は、AIを利用すること自体を制限するための新たな法規制ではない。

金融機関がAIを業務に組み込む際に、どのような管理態勢を整え、どのようなリスクを確認するかを考えるための参考となるものだ。

保険会社や代理店にとっても、重要なのはAIを利用しているかどうかだけではない。

AIにどの業務を任せ、どの情報を利用させ、どのような結果を人間が確認するのか。

そして、AIの出力や処理に問題が生じた場合、誰が対応し、どのように顧客への影響を抑えるのか。

AIの活用範囲が広がるほど、こうした業務上の役割分担と管理方法を明確にする必要性は高まる。

今回のFSB報告書は、AIの導入を個別のシステム開発だけの問題として扱わず、組織全体の業務運営とリスク管理の中で考えるための材料となる。




出典・参考資料

FSB(金融安定理事会)

金融庁・日本銀行

保険分野の国際的な議論

記事制作基準日:2026年10月23日


※本稿はFSB、金融庁、IAISなどの公表資料に基づいて作成した。FSBの実務慣行は拘束力のある国際基準ではなく、各社に特定のAIシステムや運用方法の採用を義務付けるものではない。また、本文で紹介した保険会社の事例は、FSBが匿名で掲載した参考事例であり、日本の保険会社・代理店における導入状況や一般的な効果を示すものではない。

本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による解説・分析です。制度・商品の詳細は公式発表をご確認ください。

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