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損保ADRの紛争解決手続、前年同期比54.6%増 新規受付の86.1%が保険金支払関連

損保ADRの紛争解決手続、前年同期比54.6%増 新規受付の86.1%が保険金支払関連

損害保険会社とのトラブルを扱う「そんぽADRセンター」で、苦情・紛争解決手続の受付件数が増加している。日本損害保険協会が2026年10月13日に公表した統計によると、2026年度第1四半期(4~6月)の苦情解決手続は前年同期比24.5%増の1,529件、紛争解決手続は54.6%増の303件だった。紛争解決手続の新規受付のうち86.1%は、保険金支払に関するものだ。受付件数の内訳と公表された個別事例から、契約時の説明、更改時の条件変更、事故対応など、代理店実務との接点を考える。

目次
  1. 苦情解決手続1,529件、紛争解決手続303件 いずれも前年同期から増加
  2. 相談・苦情の総受付7,487件 苦情の割合は5四半期連続で上昇
  3. 苦情・紛争の8割超が「保険金支払」に関するもの
  4. 紛争解決手続は自動車保険140件、火災保険96件
  5. 公表された169件の紛争事例 契約時・更改時の説明にも論点
  6. 紛争解決手続の終了198件、和解成立は67件
  7. 代理店・募集人が確認したい三つの実務
  8. 苦情・紛争の増加をどう受け止めるか

苦情解決手続1,529件、紛争解決手続303件 いずれも前年同期から増加

日本損害保険協会が10月13日に公表した「そんぽADRセンター統計号」2026年度第1四半期版によると、4月1日から6月30日までに新たに受け付けた苦情解決手続は1,529件、紛争解決手続は303件だった。

前年同期の2025年度第1四半期と比較すると、苦情解決手続は1,228件から301件増加。紛争解決手続も196件から107件増えている。

区分2025年度第1四半期2026年度第1四半期前年同期比
苦情解決手続(新規受付)1,228件1,529件+24.5%
紛争解決手続(新規受付)196件303件+54.6%

前四半期(2026年1~3月)と比較しても、苦情解決手続は12.5%、紛争解決手続は24.2%増加した。いずれも2025年度の各四半期を上回る受付件数となっている。

もっとも、この数字を損害保険業界全体の苦情件数と同一視することはできない。

そんぽADRセンターは、損害保険に関する一般的な相談を受け付けるほか、保険業法に基づく指定紛争解決機関として、保険会社とのトラブルの解決を支援する窓口だ。

苦情解決手続は、顧客から申し出られた苦情を保険会社に通知し、当事者間の話し合いによる解決を促すもの。紛争解決手続は、当事者間で解決できない紛争について、中立・公正な第三者が和解案の提示などを通じて解決を支援する仕組みである。

今回の統計が示しているのは、同センターが受け付けた手続件数の動きだ。保険会社が自社の窓口で受け付けた苦情すべてを含む数字ではない。


相談・苦情の総受付7,487件 苦情の割合は5四半期連続で上昇

同センターが受け付けた一般的な相談と苦情を合わせた件数は7,487件だった。

このうち苦情は3,180件で全体の42.5%、相談は4,307件で57.5%を占めた。

前年同期の苦情件数は2,503件で、全体に占める割合は34.1%だった。

苦情の割合は2024年度第4四半期の33.9%から、2025年度第1四半期34.1%、第2四半期36.3%、第3四半期38.6%、第4四半期39.4%、2026年度第1四半期42.5%と、5四半期連続で上昇している。

一方、ここでいう苦情3,180件と、苦情解決手続の新規受付1,529件は、異なる集計項目である。

苦情3,180件の集計には、苦情解決手続の対象となったものも含まれる。これに対して1,529件は、顧客の意向に基づき、保険会社に苦情内容を通知して対応を求める手続の新規受付件数だ。

両者を別々の苦情として合算することはできない。

また、苦情の割合が高まった原因についても、今回の統計だけで判断することは難しい。顧客の不満が増えた可能性に加え、相談窓口の利用状況など、数字の変動には複数の要素が関係し得るためだ。


苦情・紛争の8割超が「保険金支払」に関するもの

今回の統計で目を引くのは、苦情解決手続と紛争解決手続のいずれも、保険金支払に関する申出が大半を占めていることだ。

苦情解決手続1,529件のうち、保険金支払に関するものは1,276件で83.5%。前年同期の1,042件から234件増加した。

紛争解決手続でも、303件のうち261件、86.1%が保険金支払に関するものだった。

対象となった局面苦情解決手続紛争解決手続
契約募集133件(8.7%)15件(5.0%)
契約管理111件(7.3%)19件(6.3%)
保険金支払1,276件(83.5%)261件(86.1%)
その他9件(0.6%)8件(2.6%)
合計1,529件303件

保険金支払に関する苦情には、損害額や保険金の支払額の認定、支払可否の判断、支払手続の遅延など、さまざまな内容が含まれる。

苦情解決手続を「申出内容別」に見ると、「提示内容」が667件、「説明不足等」が644件、「手続遅延等」が504件だった。

前年同期の「提示内容」505件、「説明不足等」481件と比べても増加している。

ただし、これらは1つの苦情に複数の分類が付く場合がある。実際、2026年度第1四半期の申出内容別の分類件数を合計すると3,004件となり、苦情解決手続の新規受付1,529件を上回る。

「提示内容667件」が苦情全体のどの程度を占めるかを判断する際には、この重複計上に注意が必要だ。

また、「説明不足等」には、保険商品の説明だけでなく、契約や手続の内容に関する説明不足・誤りなどが含まれる。これをすべて募集時の説明不足と読み替えることもできない。

保険金支払に関する紛争には、約款の適用、事故状況の認定、損害額の算定など、当事者間で見解が分かれる問題も含まれる。

顧客が保険会社の判断に納得していないことと、その判断自体が不適切であったことは別の問題だ。苦情・紛争の受付件数から、直ちに保険会社や代理店の対応に問題があったと結論付けることはできない。


紛争解決手続は自動車保険140件、火災保険96件

紛争解決手続303件を保険種類別に見ると、自動車保険が140件で46.2%と最も多い。

次いで火災保険が96件(31.7%)、新種・海上保険が44件(14.5%)、傷害保険が19件(6.3%)、その他が4件(1.3%)だった。

前年同期と比較すると、自動車保険は82件から140件へ、火災保険は68件から96件へ増えている。

新種・海上保険も19件から44件に増加した。

こうした数字から、紛争解決手続の受付増には、自動車保険や火災保険などの受付件数の増加が伴っていることが分かる。

ただし、保険種目ごとの契約件数や保険金請求件数を分母とした発生率を比較したものではない。

受付件数が多いことを、その保険種目でトラブルが発生しやすいことの証拠とはできない。

なお、今回の紛争解決手続の分類では、「自動車」に自賠責保険の一部の関連案件が、「火災」に地震保険関連案件が含まれる。


公表された169件の紛争事例 契約時・更改時の説明にも論点

統計号には、2026年度第1四半期中に紛争解決手続が終了した198件のうち、169件の概要が掲載されている。

掲載対象からは、取り下げ事案19件、不応諾1件、同一申立人による内容が類似した事案などについて代表事案を掲載した際の重複分9件が除かれている。

以下では、掲載された事例のうち、契約時・更改時の説明に関わる3件を取り上げる。

これらは代理店実務との接点を考えるために選んだ事例であり、紛争全体の代表的な傾向を示すものではない。

自動車保険:記名被保険者と運転者限定特約をめぐる紛争

自動車保険に関する事例では、親族が起こした交通事故について対物賠償責任保険金の支払を求めたところ、保険会社が応じなかったとして紛争になった。

保険会社は、契約に運転者限定特約が付帯され、記名被保険者が申立人となっていたことから、事故を起こした親族は補償対象外であると主張した。

一方、申立人は契約手続に関与しておらず、親族から渡された書類で保険内容を知ったことや、事故を起こした親族が代理店から運転者限定特約について知らされていなかったことなどを主張した。

当事者双方から提出された資料の検討と意見聴取の結果、保険会社から契約手続上の不備を踏まえて賠償金を支払う和解案が提案され、申立人も合意した。

この事例は、契約に記載された記名被保険者と、実際の車両の使用状況、補償対象となる運転者の範囲を、募集時にどのように確認するかという問題を含んでいる。

ただし、和解が成立したことをもって、約款上の保険金支払義務が認定されたと理解すべきではない。公表資料では、契約手続の不備を踏まえた賠償金による和解として整理されている。

代理店実務では、運転者限定特約や記名被保険者など、補償の適用に影響する事項について、契約者と確認した内容を後から把握できることが重要になる。

火災保険:更改時の免責金額変更、説明の範囲が争点に

火災保険に関する事例では、発電所の銅線ケーブルの盗難事故が発生し、契約の免責金額によって支払保険金が大きく減少したことから、契約者が損害賠償を求めた。

保険会社は、同様の盗難事故が頻発していたことを踏まえ、従来の契約より高額な免責金額を設定する必要があり、その内容を説明して同意を得ていたと主張した。

これに対し、契約者は、新たに設定される免責金額が保険金支払に及ぼす影響について十分な説明を受けず、意向を十分に確認されないまま更改されたと主張した。

紛争解決手続では、契約者が求める免責金額の設定方式で契約できたにもかかわらず、募集人がその方式を説明していなかったことが認められた。

最終的に、契約上の免責金額を控除した支払保険金に加え、解決金を支払う内容で和解が成立している。

ここで確認したいのは、更改時の条件変更について、変更後の内容を提示するだけで顧客の理解が十分に得られるのか、という点だ。

免責金額や補償範囲が変わる場合には、その変更が事故発生時の自己負担や受取額にどのような影響を与えるのかを確認する必要がある。

特に事業用の保険では、同じ免責金額であっても、設定方法や事故の発生状況によって契約者の負担が異なる場合がある。

ただし、すべての契約で複数の免責金額設定方式を選べるわけではない。実際に選択できる条件は商品や引受基準によって異なるため、個々の契約で確認する必要がある。

団体生活総合保険:高齢期の保険料上昇が十分に伝わっていたか

団体生活総合保険に関する事例では、年齢の上昇によって月額保険料が大幅に増加することを十分に認識できなかったとして、契約者が保険料の返還を求めた。

保険会社は、案内やWebサイトで保険料表を示しており、保険期間満了前に送付する継続案内にも継続後の保険料を記載していたなどと主張した。

しかし、紛争解決手続では、特に保険料が大きく上昇する一定の高齢期について、案内やWebサイトの保険料表に記載されていなかった点などから、勧誘に不十分な部分があったと確認された。

最終的には解決金を支払う内容で和解が成立した。

この事例は、保険料表を提示していることと、将来の保険料負担を顧客が適切に理解できることは必ずしも同じではない、という論点を含んでいる。

特に、年齢によって保険料が変わる商品や更新型の商品では、加入時点の保険料だけでなく、将来の保険料変動についてどのような情報を示すかも重要になる。

もっとも、年齢による保険料の上昇そのものが不適切と判断された事例ではない。

問題となったのは、顧客の判断に関わる保険料情報の示し方や、勧誘時の説明内容である。


紛争解決手続の終了198件、和解成立は67件

2026年度第1四半期中に終了した紛争解決手続は198件だった。

このうち、和解が成立したものは67件(33.8%)、特別調停によるものが2件(1.0%)、和解成立の見込みがないとして終了したものは109件(55.1%)だった。

そのほか、一方の当事者の離脱が19件(9.6%)、不応諾が1件(0.5%)となっている。

なお、198件は同四半期中に終了した手続の件数であり、同四半期に新たに受け付けた303件と同一の集団ではない。

また、和解成立の見込みがないとして終了した109件を、申立人の請求が不当だった、あるいは保険会社の対応が正しかったと判断された件数として扱うこともできない。

公表事例には、当事者間の主張に大きな隔たりがあり、提出された資料だけでは客観的な事実認定が難しく、和解による解決が困難と判断されたものも含まれている。

逆に、和解が成立した事例であっても、保険会社が契約者の主張を全面的に認めたとは限らない。

そんぽADRセンターにおける紛争解決手続は、裁判のように法的責任の有無を一律に確定させることを目的とするものではなく、当事者の主張や資料を踏まえ、合意による解決を支援する仕組みである。

公表された和解事例を読む際には、紛争の発端、双方の主張、手続で確認された事項、最終的な解決内容を区別して捉える必要がある。


代理店・募集人が確認したい三つの実務

今回の統計では、保険金支払に関する苦情・紛争が大半を占めていた。

その一方、個別の公表事例には、契約時の確認や更改時の条件変更、保険料の説明など、募集や保全の段階に関わる問題も含まれている。

これらを踏まえ、代理店や募集人が日常業務を点検する際の参考となる事項を整理した。

1.契約時・更改時の条件確認

重要なのは、顧客に説明したという事実だけでなく、何を確認し、どのような条件で契約することになったのかを把握できることだ。

特に、更改時に前契約から補償条件が変更される場合には、保険料の増減だけでなく、事故が発生した際の補償内容や自己負担にどのような違いが生じるかを確認したい。

自動車保険の運転者の範囲、火災保険の免責金額、更新後の保険料など、確認すべき内容は商品ごとに異なる。

2.保険金請求時の説明と連絡

保険金支払に関する苦情が多いという結果は、代理店だけに責任があることを示すものではない。

保険金の支払可否や金額の判断は、保険会社が約款、事故状況、損害調査の結果などを踏まえて行う。

代理店が事故受付や保険金請求の支援に関わる場合には、保険会社がまだ判断していない事項を確定したものとして顧客に伝えないこと、確認が必要な事項や今後の手続を整理することが重要になる。

顧客から支払判断について異議が示された際も、何について見解が異なっているのかを把握し、必要に応じて保険会社へ確認することが求められる。

3.説明・確認の記録管理

契約時の説明や顧客との確認内容について、後から経緯を追える状態になっているかも点検したい。

例えば、以下のような事項だ。

  • 契約時に確認した意向、契約条件、補償範囲の記録が残っているか。

  • 更改時に変更した条件と、その説明内容を確認できるか。

  • 顧客からの問い合わせや異議について、回答内容とその経緯を把握できるか。

  • 事故対応中に新たな資料や事情が判明した場合、対応履歴に反映されているか。

  • 説明を担当した募集人以外でも、必要な範囲で過去の対応を確認できるか。

これらは、今回の統計から直接導かれる法令上の義務を列挙したものではない。公表事例を踏まえ、日常業務の点検に活用できる事項として整理した。

必要な記録の内容や管理方法は、法令・監督指針、各社の募集ルール、商品特性、代理店の業務範囲などを踏まえて判断する必要がある。

また、記録が存在することだけで説明の適切性が保証されるわけではない。

一方、説明や確認を行った経緯が残っていなければ、後に認識の違いが生じた際、事実関係を確認することが難しくなる。


苦情・紛争の増加をどう受け止めるか

2026年度第1四半期のそんぽADRセンター統計では、苦情解決手続、紛争解決手続ともに新規受付件数が前年同期から増加した。

特に紛争解決手続は54.6%増となり、その86.1%が保険金支払に関するものだった。

ただし、こうした数字から、代理店の募集品質が悪化した、あるいは保険会社の保険金支払対応に問題が増えたと結論付けることはできない。

保険金支払に関する紛争には、事故状況の認定や損害額の算定など、募集時の対応だけでは説明できないものも含まれるためだ。

その一方、公表された個別事例には、契約条件の確認、更新時の変更内容、将来の保険料負担の案内など、募集や保全の段階での対応が争点となったものもある。

代理店にとって今回の統計の価値は、苦情・紛争の増加という結果を知ることだけではない。

実際に争われた内容から、顧客との認識の違いがどのような場面で生じ得るのか、その後の説明や事実確認に何が必要になるのかを考える材料として活用できることにある。

保険会社の支払判断に関わる部分と、代理店が募集・保全・事故受付などで担う部分を区別しながら、顧客対応の実態を点検する。

件数の増減だけで評価するのではなく、個別事例から得られる教訓を日常業務にどう生かすかが、重要な視点となる。




出典・参考資料

一次資料

日本損害保険協会「そんぽADRセンター統計号」2026年度第1四半期(PDF・78ページ)

日本損害保険協会「そんぽADRセンター統計号を発行」(2026年10月13日)

制度・手続の参考情報

日本損害保険協会「苦情・紛争解決等業務に関する実施状況等」

そんぽADRセンター「苦情解決手続」

そんぽADRセンター「紛争解決手続」

統計の対象期間: 2026年4月1日~6月30日(2026年9月9日集計)

記事制作基準日: 2026年10月23日

※本稿は日本損害保険協会の公表資料に基づいて作成した。掲載した紛争事例は個別の事案に関するものであり、特定の保険会社や代理店の募集品質、法令違反の有無などを一般的に評価するものではない。

本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による解説・分析です。制度・商品の詳細は公式発表をご確認ください。

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