2026年保険業法改正と比較推奨販売の見直し|代理店が押さえるべき変更点
2025年6月6日に公布された改正保険業法(令和7年法律第54号)は、2026年6月1日に施行されました。今回の改正では、特定大規模乗合保険募集人の体制整備義務、兼業代理店に関する管理、保険会社による過度な便宜供与の禁止など、代理店実務に関係する制度が見直されています。
目次
2025年6月6日に公布された改正保険業法(令和7年法律第54号)は、2026年6月1日に施行されました。今回の改正では、特定大規模乗合保険募集人の体制整備義務、兼業代理店に関する管理、保険会社による過度な便宜供与の禁止など、代理店実務に関係する制度が見直されています。これとは別に、乗合代理店の比較推奨販売についても、顧客の意向に沿った商品選別・推奨を徹底するための規則・監督指針の見直しが進められています。本稿は、この2つを区別しながら、代理店が押さえておきたい変更点を一つの記事で俯瞰できる総合ガイドです。
本稿の位置づけについて
2026年6月1日に施行された改正保険業法・関連府令の中心は、特定大規模乗合保険募集人の体制整備、兼業業務に関する管理、保険会社側の監視、過度な便宜供与の禁止などです。一方、比較推奨販売に関する施行規則第227条の2等の見直しについては、金融庁が2026年3月30日時点で「別途公表する予定」としており、本稿執筆時点(2026年7月24日)で確認できる公表資料からは確定的な内容を断定できません。本稿では、施行済みの内容と、別途見直しが進められている内容を明確に分けて記載しています。最終的な規定内容は、必ず金融庁および所属保険会社等の最新公表資料でご確認ください。
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なぜ改正されたのか
今回の制度見直しの背景には、保険金不正請求事案や企業向け保険における保険料調整行為などを通じて明らかになった、損害保険会社と大規模代理店の関係、代理店管理、競争環境をめぐる構造的な課題があります。
代表的な事案として、自動車販売・修理業と保険代理店業を兼業する事業者において、不適切な修理や過大な保険金請求が行われていた事案や、複数の損害保険会社が、企業向け保険契約の入札等において保険料などを事前に調整していた事案が明らかになりました。
これらの事案を通じて、保険会社と大規模代理店との力関係、兼業業務と保険募集・保険金支払との利益相反、代理店の業務品質、保険会社による代理店への教育・管理・指導など、損害保険業をめぐる構造的な課題が明らかになりました。2014年(平成26年)の保険業法改正によって保険募集人の体制整備義務などが導入されて以降、今回の改正は、大規模代理店や兼業代理店の業務運営を改めて見直す重要な制度改正と位置づけられます。
いつ施行されるのか
改正保険業法(令和7年法律第54号)は、2025年6月6日に公布され、公布の日から1年を超えない範囲内で政令により定める日から施行するとされていました。施行日を定める政令は2025年12月19日に公布され、改正保険業法の施行日は2026年6月1日とされました。
体制整備義務、兼業業務、過度な便宜供与などに関する施行規則・監督指針は、2026年6月1日から施行・適用されています。一方、比較推奨販売に関係する施行規則第227条の2等については、2026年3月30日の金融庁公表時点で、パブリックコメント結果等を別途公表する予定とされていました。
本稿執筆時点(2026年7月)でのステータス
体制整備義務などの改正は、すでに施行・適用されています。一方、比較推奨販売(いわゆるハ方式・ロ方式)に関する規則・監督指針は、本稿執筆時点でまだ確定的な公表を確認できていません。「比較推奨販売のルールも2026年6月1日に一括して施行された」と読まないようご注意ください。
主な変更点一覧
代理店実務への影響が大きい変更点を、施行状況で分けて一覧にまとめます。詳細は各見出しで解説します。
2026年6月1日に施行された主な変更施行済み
| 変更点 | 概要 |
|---|---|
| 特定大規模乗合保険募集人の体制整備 | 営業所等ごとの法令等遵守責任者、統括責任者、苦情処理体制などの整備 |
| 兼業業務に関する体制整備 | 兼業業務が保険募集・保険金支払に不当な影響を及ぼさないための管理・監視体制の整備 |
| 保険会社側の管理・監視 | 特定大規模乗合保険募集人等との取引で顧客の利益が不当に害されないよう保険会社が監視する体制の整備 |
| 過度な便宜供与の禁止 | 保険契約者・被保険者およびその密接関係者への、社会通念を逸脱する便宜供与の禁止 |
別途進められている比較推奨販売の見直し見直し進行中
| 変更点 | 概要 |
|---|---|
| 従来のハ方式と呼ばれる類型の見直し | 代理店側の事情を中心とする従来の推奨類型を見直し、顧客の意向に沿った選別・推奨を求める方向 |
| 顧客意向に沿った選別・推奨(いわゆるロ方式) | 顧客が重視する事項を把握し、その意向に沿って商品を選別・推奨する方向で制度を見直し |
| 意向把握との連動 | 顧客の意向と商品選別・推奨理由との関係を、より明確に説明・確認することが重要に |
| 比較推奨理由の見直し | 顧客が重視する事項と、商品を選別・推奨した理由との関係を説明する方向で規定を見直し |
| 業務品質を重視した管理 | 規模や増収面だけでなく、顧客対応や募集管理を含む業務品質を適切に評価する必要性が高まる |
従来のハ方式と呼ばれる類型の見直し
比較推奨販売については、客観的な商品基準によらず、代理店の経営方針や取扱方針などを理由に特定の商品を提示・推奨する従来の類型を見直す方針が示されています。この類型は、業界で一般に「ハ方式」と呼ばれてきました。「当社はこの保険会社と長年の取引関係がある」といった代理店側の事情だけでは、目の前の顧客にその商品を推奨する理由を十分に説明できません。
ハ方式と呼ばれる類型の詳しい内容は、関連記事「ハ方式とは?ロ方式との違いをわかりやすく解説」をご覧ください(同記事も本稿と同様の観点で表現を見直しています)。
ロ方式(顧客意向に沿った選別・推奨)
比較推奨販売の見直しでは、顧客が重視する事項を把握し、その意向に沿って比較可能な同種の商品を選別・推奨する方法を基本とする方向が示されています。この方法は、業界で一般に「ロ方式」と呼ばれています。商品を選別・推奨する際には、顧客が重視する保障・補償内容、保険料、保険期間、支払条件などと、提案した商品の特性との関係を分かりやすく説明することが重要です。
意向把握との連動
比較推奨販売の見直しに対応するうえでは、顧客の意向と、商品を選別・推奨した理由との関係を明確にすることが重要になります。意向把握義務そのものは、今回の改正で新設されたものではなく、2016年施行の改正保険業法から求められているものです。顧客の当初の意向を把握し、商品説明などを通じて意向が変化した場合には、その経緯を確認したうえで、最終的な意向と契約内容が合致していることを顧客が確認できるようにする必要があります。具体的な記録方法は、所属保険会社や代理店の社内規則に従います。
意向把握で確認すべき事項、よくある不十分な事例、記録の書き方は、関連記事「意向把握とは?保険募集で求められるポイントを解説」で詳しく解説しています。
比較推奨理由の見直し
比較推奨理由の説明は、単なる営業トークではありません。顧客の意向と、提示・推奨する商品との関係を分かりやすく伝えるための重要な募集実務です。顧客から「お任せしたい」と言われた場合でも、その回答だけで意向把握を終えるのではなく、保障・補償内容、保険料、保険期間などの選択肢を示しながら、顧客が重視する事項を具体化することが重要です。
単独では適切な推奨理由にならない表現、記載例、ケース別の考え方は、関連記事「比較推奨理由の書き方【記載例付き】」でまとめています。
業務品質を重視した管理
今回の制度見直しの背景にある重要な論点の一つが、代理店の業務品質です。成約件数や増収率などの規模・業績面だけに偏るのではなく、顧客対応、募集管理、アフターフォロー、情報管理などを含む業務品質を適切に評価する必要性が高まっています。
生命保険協会では、代理店の業務品質を評価する自主的な取組みとして「業務品質評価基準」を設けています。ただし、これは今回の改正保険業法によって設けられた法定基準ではなく、業界団体による自主的な評価の枠組みです。
業務品質という考え方が生まれた背景、営業成績との違い、代理店でできる改善は、関連記事「募集品質とは何か?金融庁が重視するポイント」で解説しています。
管理態勢(施行済み)
2026年6月1日に施行された改正のうち、代理店実務への影響が大きいのが体制整備義務の強化です。主な内容は次のとおりです。
- 特定大規模乗合保険募集人の体制整備義務:特定大規模乗合保険募集人には、営業所または事務所ごとの法令等遵守責任者、本店または主たる事務所における統括責任者の設置、苦情処理体制の整備などが求められます
- 兼業業務に関する管理強化:兼業業務が保険募集・保険金支払に不当な影響を及ぼさないための管理・監視体制を整備する必要があります。具体的には、兼業業務を行う部門と保険募集に関わる部門との役割分担、情報管理、利益相反の管理、内部監査など、自社の業務実態に応じた体制を整える必要があります
- 保険会社側の管理・監視体制:保険会社等にも、特定大規模乗合保険募集人への業務委託や、兼業特定保険募集人との取引によって顧客の利益が不当に害されないよう、必要な管理・監視体制を整備することが求められます
- 過度な便宜供与の禁止:保険会社等による過度な便宜供与を禁止する規制が整備され、保険契約者または被保険者だけでなく、これらと密接な関係を有する者も規制対象に含まれます
特定大規模乗合保険募集人への該当性
特定大規模乗合保険募集人に該当するかどうかは、取り扱う保険の種類、乗り合う保険会社数、手数料・報酬等の額、既存の「規模が大きい特定保険募集人」への該当状況など、施行規則に定められた要件に基づいて判断する必要があります。自社の該当性は、金融庁資料、所属保険会社の対応ガイド、管轄財務局等を通じて確認してください。
今後代理店がやるべきこと
- 比較推奨プロセスの点検:顧客の意向と結びつかない推奨理由や、代理店側の事情だけによる説明が営業トーク・提案資料に残っていないか確認し、顧客が重視する事項を起点とした構成へ見直す
- 意向把握・推奨理由の記録の整備:顧客の意向、比較・選別した商品の範囲、推奨理由、最終的な意向確認の結果などを、事後的に確認できる記録方法を整える
- 体制整備義務の該当性確認:自社が特定大規模乗合保険募集人に該当するか、兼業の有無を含めて、金融庁資料や所属保険会社を通じて確認する
- 苦情対応体制の見直し:自社に適用される法令・監督指針・社内規則に基づき、苦情の受付、報告、対応、原因分析、改善までのプロセスが機能しているか点検する
- 業務品質を軸にした評価制度の見直し:募集人評価が件数・増収率だけに偏っていないか、業務品質の観点を組み込めているか検討する
- 継続的な情報フォロー:2026年6月1日に施行・適用された体制整備関係の規定に加え、別途公表が予定されている比較推奨販売関係の規則・監督指針についても、金融庁の公表資料を継続的に確認し、必要に応じて社内規程や募集マニュアルへ反映する
今回の改正と比較推奨販売の見直しは、代理店の規模や販売実績だけでなく、顧客本位の募集、業務品質、利益相反管理、組織的な管理態勢を重視する方向を、より明確にするものです。施行済みの体制整備関係と、見直しが進行中の比較推奨販売関係を区別しながら、自社の対応状況を継続的に点検していくことが求められます。
本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による取材・調査・分析をもとに構成しています。