【2026年8月28日 金融庁パブコメ回答から読み解く】比較推奨販売の「ハ方式」廃止が確定 2028年3月施行、乗合代理店と保険会社は何を変えるべきか
金融庁が759件の意見を受け、回答を公表。「全社見積り」「お任せ」「推奨理由」「証跡保存」の実務を読み解く
目次
- ハ方式は何が問題とされたのか
- 施行日は2028年3月1日。公布日から直ちにハ方式が消えるわけではない
- 「全社・全商品の見積り」が一律に必要になるわけではない
- 取扱件数が少ない保険会社を最初から外すことはできるか
- 顧客の「お任せします」は、商品選定を白紙委任する意味ではない
- 推奨理由は「本当の主たる理由」を説明する
- 販売実績やランキングは推奨理由になるか
- 比較システムを導入すれば対応できるわけではない
- 代理店に求められるのは、規程だけでなく検証と改善
- 証跡は「すべての会話を記録する」ことではない
- 保険会社にも教育・管理・指導の責任がある
- 代理店手数料の差は残るが、推奨をゆがめてはならない
- 事業報告書の提出対象者は「推奨方針」も報告
- 2028年3月までに見直したい6つの項目
- 比較推奨販売は「説明書類の改訂」だけでは対応できない
金融庁は2026年8月28日、改正内閣府令を公布するとともに、『保険会社向けの総合的な監督指針』等の改正を公表しました。
2025年12月17日から2026年1月30日まで実施された意見募集には、133先の個人・団体から計759件の意見が寄せられました。改正後の内閣府令は2028年3月1日に施行され、監督指針も同日から適用されます。
今回の改正で、乗合代理店の比較推奨販売において、一般に「ハ方式」と呼ばれてきた方法が削除されます。
ただし、改正内容を「比較推奨販売がすべてロ方式に一本化される」とだけ説明するのは正確ではありません。
複数商品の内容を比較して説明する、いわゆる「イ」の方法は残ります。そのうえで、代理店が特定の保険契約を選別して提示・推奨する場合には、顧客の意向に沿って商品を選別し、その基準や理由を説明することが求められる――というのが制度改正の中心です。
最初に押さえたい結論
- いわゆるハ方式は、2028年3月1日から削除される
- 複数商品の内容を比較する「イ」は引き続き残る
- すべての案件で全社・全商品の見積りを作る制度ではない
- 特定商品を推奨するときは、顧客意向とのつながりを説明する
- 代理店は規程、教育、記録、検証、改善まで整備する
- 保険会社にも、商品情報の提供、教育、管理、指導が求められる
ハ方式は何が問題とされたのか
現行の保険業法施行規則では、乗合代理店が商品を提示・推奨する方法について、一般に次の3つに整理されています。
| 現行の区分 | 概要 | 改正後 |
|---|---|---|
| イ | 複数の保険契約の内容を比較して説明する | 存続 |
| ロ | 顧客の意向に沿って比較可能な同種の保険契約を選別し、提示・推奨する | 存続・再整理 |
| ハ | ロの選別を行わずに特定の保険契約を提案し、その提案理由を説明する | 削除 |
現行のハ方式では、顧客の意向に沿って比較可能な商品を絞り込む手続きを取らず、代理店独自の基準や方針により特定商品を推奨することが可能でした。
改正後は、規則上の記載が「イからハまで」から「イ又はロ」に変更され、ハに相当する規定が削除されます。新しいロでは、代理店が取り扱う保険契約のうち、顧客の意向に沿って代理店が選別した比較可能な同種の保険契約の概要と、提案理由を説明することが求められます。
金融庁は、ハ方式の廃止について、特定の個別事案だけへの対応ではなく、顧客の最善の利益を重視する法制度の整備や、金融審議会の提言を踏まえて比較推奨販売の在り方を見直した結果であると説明しています。
また、保険会社の代理店手数料体系、各種支援、便宜供与など、顧客から見えにくい要素が代理店の商品選択に影響してきた構造的な問題も、今回の改正の背景に挙げられています。
施行日は2028年3月1日。公布日から直ちにハ方式が消えるわけではない
改正後の規定が適用されるのは2028年3月1日です。したがって、2026年8月28日の公布と同時に、現行のハ方式の規定が直ちに失効したわけではありません。
一方で金融庁は、施行日を待つことなく、可能な限り速やかに体制整備を行うことが望ましいとしています。
また、今回の改正対象に含まれない「権限明示義務」と「意向把握義務」は、すでに現行法上の義務です。2028年までは従来どおりでよい、という意味ではありません。
「全社・全商品の見積り」が一律に必要になるわけではない
代理店が最も気にしている論点の一つが、取扱保険会社すべての見積りを毎回作成しなければならないのか、という点です。
金融庁は、すべての案件について、すべての取扱保険会社の商品を網羅的に見積り・説明することを一律に求めるものではないと明確にしています。
商品内容や保険料水準の差が限定的な場合も、その旨を説明したうえで、顧客が重視する補償内容、保険料、特約など、判断に必要な事項に絞って分かりやすく説明することが考えられます。
しかし、「全社見積りが不要」であることと、代理店が自由に比較対象を決められることは同じではありません。
代理店が比較対象を絞り込む場合は、顧客の意向に沿った選別であることが必要です。選別した基準や理由についても、合理的かつ一定の具体性をもって説明できなければなりません。
取扱件数が少ない保険会社を最初から外すことはできるか
比較推奨販売の対象となる「取り扱う保険契約」は、原則として、所属保険会社との代理店委託契約や、それに基づく覚書などにより、代理店が取り扱うこととされている保険契約を指します。
代理店が社内規則だけで「この商品は販売しない」と決め、比較推奨の対象から外すことは適切ではないとされています。
新規募集を停止する商品や種目がある場合は、停止対象、停止時期、既契約の保全対応などを、保険会社との代理店委託契約や覚書等により明確にする必要があります。合理的な理由のない形式的な取扱範囲の縮小により、特定の保険会社を優先する運用は、規制の潜脱として問題となる可能性があります。
また、代理店内での取扱シェアや件数が少ないことだけを理由に、比較可能な商品を比較対象から除外することも適切ではありません。
金融庁は、取扱実績がほとんどないことや、保有契約がわずかに残っていることだけをもって、当然に比較対象から除外できるとはしていません。比較対象となる『取り扱う保険契約』の範囲は、原則として代理店委託契約や覚書等に基づいて判断することになります。
顧客の「お任せします」は、商品選定を白紙委任する意味ではない
自動車ディーラーや地域代理店では、顧客から「よく分からないので任せる」「あなたのおすすめでよい」と言われる場面が少なくありません。
金融庁は、「営業スタッフがおすすめする商品でよい」という顧客の発言だけをもって、代理店が任意に保険会社や商品を選別・推奨することは適切ではないとしています。
この場合でも、補償内容、保険料水準、特約、免責金額など、顧客が重視し得る事項を確認し、可能な限り意向の形成や明確化を図る必要があります。
それでも明確な意向が確認できない場合は、それまでに把握した当初意向、顧客属性、加入目的、既契約、保険料水準、必要と考えられる補償内容などを踏まえ、顧客の最善の利益を勘案して商品を提案することが考えられます。
ただし、特定商品を推奨するために「おすすめでいいですよね」と顧客に言わせる話法や導線を設けることは認められません。手数料、販売目標、便宜供与などを背景に、顧客の意向を特定商品へ誘導することも不適切です。
推奨理由は「本当の主たる理由」を説明する
改正監督指針では、推奨理由について、単にそれらしい理由を形式的に記載するだけでは足りないことが明確にされています。
代理店には、提示・推奨する保険契約の概要と、選別・推奨した基準や理由を説明することが求められます。特定商品を推奨する場合は、代理店側の都合ではなく、顧客の最善の利益を勘案した、合理的かつ一定の具体性を有する説明が必要です。
また、本来の推奨理由を顧客に告げないことや、複数の理由がある場合に主たる理由を隠して、別の理由だけを説明することも避けなければなりません。
例えば、次の説明だけでは、一般に抽象的です。
A社は事故対応サービスが充実しているため推奨します。
金融庁は、事故受付体制、受付時間、ロードサービス、事故後のサポート、保険金支払手続など、顧客の比較判断に関係する具体的な事項に即して説明する必要があるとしています。
顧客が保険料を重視する場合も、保険料だけで直ちに商品を決めるのではなく、可能な限り同一または近い条件で比較し、補償、特約、免責、付帯サービスなどの違いも踏まえて説明することが必要です。
INSURANCE JOURNALの実務例としては、次のように顧客意向と商品特性を結び付ける形が考えられます。
お客さまは、保険料水準に加えて、夜間・休日の事故受付と事故時の代車費用を重視されています。取扱商品のうち、ご希望の補償条件を満たす商品を確認したところ、本商品は代車費用特約を付帯でき、事故受付時間もご希望に合致するため提案しています。
重要なのは文章の長さではなく、顧客が重視した事項、比較対象、選別結果、推奨理由が一つの流れとして説明できることです。
販売実績やランキングは推奨理由になるか
「取扱件数が多い」「当代理店で最も売れている」といった情報は、それだけで商品を推奨する主たる理由にはできません。
金融庁は、顧客が売れ筋や他の顧客の契約動向を参考にしたいという意向を示した場合、契約数ランキングなどを参考情報として提示することは考えられるとしています。
一方、ランキングは、過去の販売方針、手数料、便宜供与、従来の推奨方法などの影響を受ける可能性があります。ランキングだけを主な理由として特定商品を推奨することは適切ではありません。
比較システムを導入すれば対応できるわけではない
比較ツールや意向把握システムは、比較推奨販売の品質と一貫性を高める有効な手段になり得ます。
しかし、システムの出力結果や保険料一覧を提示するだけでは、意向把握や比較推奨販売の義務を果たしたことにはなりません。
システムを利用する場合は、掲載情報の正確性・最新性、比較条件、補償内容、保険料算定条件、対象商品、表示順、比較ロジックなどを管理し、特定の保険会社へ恣意的に誘導する設計となっていないかを確認する必要があります。
比較ロジックを統一すること自体は否定されていません。むしろ、募集人ごとのばらつきを抑え、管理態勢を高度化する取組になり得ます。
ただし、ロジックを固定した結果、顧客の個別意向にかかわらず同じ保険会社が選ばれるような仕組みになっていないか、継続的に検証・見直すことが必要です。
代理店に求められるのは、規程だけでなく検証と改善
改正監督指針では、乗合代理店に対し、比較推奨販売に関して次の一連の体制を整備するよう求めています。
- 提示・推奨の基準や理由を社内規則等に定める
- 社内規則等を踏まえて募集人を教育・管理・指導する
- 比較推奨販売の適切性を確認できる記録や証跡を保存する
- 定期的または必要に応じて実施状況を確認・検証する
- 検証結果を踏まえて募集方法を見直し、改善する
確認・検証では、保険会社からの便宜供与や出向者の存在が、顧客の商品選択を妨げていないかも確認対象になります。
体制整備義務は、法人か個人か、代理店の規模が大きいか小さいかを問わず課されます。ただし、金融庁は、部門設置、人員配置、記録方法、管理手法を一律に定めるものではなく、代理店の規模、業務特性、募集形態、取扱商品に応じた実効的な体制を求めています。
証跡は「すべての会話を記録する」ことではない
金融庁は、すべての案件について、顧客との全発言や代理店の判断過程を網羅的に記録することまでは求めていません。
記録として考えられるのは、顧客の主な意向、属性、意向把握の方法、比較・選別の対象範囲、提示・推奨した商品、推奨基準、説明内容の概要などです。
保存媒体は紙に限定されず、電子データ、システム入力記録、音声、録画なども利用できます。顧客の署名・押印付き書面を一律に取得する必要もありません。
保存期間にも一律の年数は示されていません。
代理店が、契約の性質、保険期間、苦情・紛争対応、個人情報保護、事後検証の必要性などを踏まえ、合理的な保存期間を社内規則等で定めることになります。
確認・検証も全件調査に限定されません。苦情、不祥事、特定保険会社への偏り、募集人・拠点ごとの傾向などを踏まえ、サンプリングや重点確認を組み合わせるリスクベースの方法が認められています。
保険会社にも教育・管理・指導の責任がある
比較推奨販売の体制整備は、代理店だけの問題ではありません。
各保険会社は、自社が募集を委託する代理店に対し、法令等遵守と適正な募集を確保するため、必要かつ適切な教育・管理・指導を行う責任があります。
具体的には、自社商品に関する情報提供、募集人教育、照会対応、代理店への管理・指導などが求められます。
一方、乗合代理店自身にも保険業法第294条の3に基づく体制整備義務があります。複数の保険会社に所属しているからといって、乗合代理店自身には法294条の3に基づく体制整備義務があり、各所属保険会社にも代理店に対する教育・管理・指導等が求められます。登録申請等を代申会社が取りまとめる場合であっても、それによってこれらの法令・監督上の責任が一社に集約されるものではありません。
比較推奨販売の具体的な方法は、募集形態、取扱商品、顧客の意向等に応じ、各乗合代理店と各保険会社がそれぞれの役割に応じて適切に検討する必要があります。代理店は自らの体制整備義務を履行し、保険会社は教育・管理・指導等を実効的に行うことが求められます。。
保険会社による比較ツールや資料等の提供が直ちに問題となるものではありませんが、その内容や費用負担、役務提供の程度によっては、過度な便宜供与に当たらないかを個別に検討する必要があります。保険会社による比較ツールや資料等の提供が直ちに問題となるものではありませんが、その内容や費用負担、役務提供の程度によっては、過度な便宜供与に当たらないかを個別に検討する必要があります。ただし、本来代理店が負担すべき費用を保険会社が負担していないか、代理店自身が行うべき業務を保険会社が代行していないかなど、過度な便宜供与に当たらないかを確認する必要があります。
代理店手数料の差は残るが、推奨をゆがめてはならない
パブリックコメントでは、保険会社ごとの代理店手数料率やポイントの差が、比較推奨販売に影響するのではないかという意見も多数寄せられました。
金融庁は、代理店手数料は保険会社と代理店との委託契約で定められるもので、金額の決定に直接関与することは困難としています。
その一方で、手数料が不適切なインセンティブとならないよう、損害保険会社には、規模や増収率に偏らず、業務品質を重視した手数料体系とすることを求めています。比較推奨販売においても、手数料の多寡や算出方法が、顧客意向に沿わない商品選定につながらないよう留意する必要があります。
実務上は、手数料体系を設計する部門、代理店営業部門、コンプライアンス部門が連携し、顧客意向に反する誘因が生じていないか検証することが考えられます。
事業報告書の提出対象者は「推奨方針」も報告
事業報告書の提出対象となる保険募集人については、別紙様式第25号の2(法人)・第25号の3(個人)に、比較・推奨販売に関する新たな記載項目が設けられます。
新様式では、比較・推奨販売の方法として、次の事項を記載します。
- 顧客意向に沿って選別した保険契約から、特定商品を推奨する場合の基準・理由
- 比較・推奨販売の適切性を確認する方法
推奨販売や確認方法を記載したマニュアル、社内規則等がある場合は、その書面を添付することで記載を省略できます。
これはすべての代理店に事業報告書の提出を求めるものではありません。しかし、報告書の対象外である代理店についても、同様の推奨方針と検証方法を社内で明確にすることが、実務上の基礎になります。
2028年3月までに見直したい6つの項目
施行までに代理店が優先して確認したいのは、次の6点です。
1.取扱商品の範囲
代理店委託契約、覚書、募集停止商品、保全のみ行う商品、システム上取り扱えない商品を整理します。
2.顧客意向の確認方法
保険料、補償、特約、免責、事故対応、付帯サービスなど、顧客が重視する事項を確認する方法を定めます。
3.比較・選別の基準
どの意向に対して、どの商品を比較対象とするのかを整理します。ただし、特定商品へ誘導する固定ロジックとならないよう注意が必要です。
4.推奨理由の説明
顧客意向と商品特性がつながった説明になっているか、手数料、取扱実績、事務習熟度などが実質的な主たる理由になっていないかを確認します。
5.記録と検証
記録項目、保存媒体、保存期間、サンプリング方法、問題があった場合の改善手続を定めます。
6.保険会社との役割分担
商品情報、研修、問い合わせ、システムデータ、募集停止、共同募集、更改対応について、各保険会社と認識を合わせます。
比較推奨販売は「説明書類の改訂」だけでは対応できない
今回の改正は、比較推奨理由の欄を書き換えれば対応できる制度ではありません。
問われるのは、顧客の意向を起点として商品を選別し、その理由を説明し、後から検証できる一連の業務プロセスです。
一方で、金融庁は、全社・全商品の見積り、全件の詳細記録、統一された書式や専任部門を一律に求めているわけでもありません。
代理店の規模や募集形態に応じて負担を抑えながら、代理店都合による選別を排除し、顧客意向とのつながりを説明できる仕組みをつくること。それが、2028年3月に向けた制度対応の中心になります。
記事注記:
本稿は、2026年8月31日時点で公表されている金融庁の報道発表、保険業法施行規則等の新旧対照表、「保険会社向けの総合的な監督指針」の新旧対照表、パブリックコメントに対する金融庁の回答を基に、一般的な実務論点を整理したものです。個別案件については、顧客とのやり取り、代理店委託契約、取扱商品、募集形態などにより判断が異なります。
本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による解説・分析です。制度・商品の詳細は公式発表をご確認ください。
