【2026年8月28日 金融庁パブコメ回答から読み解く】「全社見積りは必要?」「お任せはどう扱う?」比較推奨販売の実務Q&A
指名買い、更改、推奨商品群、比較ツール、証跡保存――759件のパブリックコメント回答から整理
目次
- Q1.ハ方式はすでに使えなくなったのですか
- Q2.取扱保険会社すべての見積りを作成する必要がありますか
- Q3.顧客が「見積比較は不要」「代理店に任せる」と言った場合はどうなりますか
- Q4.顧客から保険会社や商品を指定された「指名買い」はどう扱いますか
- Q5.更改契約は比較推奨販売の対象外ですか
- Q6.代理店独自の「推奨商品群」を設定できますか
- Q7.「事故対応が良い」「一番売れている」は推奨理由になりますか
- Q8.比較システムの結果どおりに提案すれば問題ありませんか
- Q9.どこまで記録を残す必要がありますか
- Q10.共同募集では、幹事代理店だけが対応すればよいですか
- Q11.自賠責保険も比較推奨販売の対象ですか
- Q12.小規模代理店も同じ体制を整備する必要がありますか
- Q13.保険会社は代理店をどこまで支援すべきですか
- 代理店が保険会社に確認しておきたい事項
- 保険会社が代理店に確認しておきたい事項
- 形式的な「ロ方式」への置き換えでは足りない
金融庁は2026年8月28日、比較説明・推奨販売に関する保険業法施行規則等を改正する内閣府令を公布するとともに、『保険会社向けの総合的な監督指針』等の改正内容を公表しました。
2025年12月17日から2026年1月30日まで実施された意見募集には、133先の個人・団体から計759件の意見が寄せられました。改正後の内閣府令は2028年3月1日に施行され、改正後の監督指針も同日から適用されます。
今回の改正では、乗合代理店の比較推奨販売において、一般に「ハ方式」と呼ばれてきた規定が削除されます。
改正後、代理店が「二以上の比較可能な同種の保険契約」の中から特定の保険契約を選別して提示・推奨する場合には、顧客の意向に沿って選別した保険契約の概要と、提案理由を説明することが求められます。
金融庁のパブリックコメント回答では、全社見積り、顧客からの「お任せ」、指名買い、更改・継続契約、推奨商品群、比較ツール、共同募集、自賠責保険、証跡保存など、代理店現場で判断に迷いやすい論点について具体的な考え方が示されました。
本稿では、乗合代理店と保険会社が特に確認しておきたい実務上の疑問をQ&A形式で整理します。
本稿が対象とする制度
本稿で扱うのは、2026年8月28日に公表された比較推奨販売に関する改正です。
2026年3月30日公表分で扱われた「特定大規模乗合保険募集人又は兼業特定保険募集人に関する措置等」とは、対象となる制度、施行時期、実務対応を切り分けて読む必要があります。
本稿における「イ」「ロ」について
本稿では便宜上、保険業法施行規則第227条の2第3項第4号イに係る比較説明を「イ」、同号ロに係る選別・提示・推奨を「ロ」と表記します。
これは、代理店が会社単位でイかロのどちらか一方を選択する制度ではありません。実際の募集過程で何を行ったかによって適用される規定が判断され、一つの募集過程で比較説明の「イ」と、選別・提示・推奨の「ロ」の双方への対応が必要になる場合もあります。
Q1.ハ方式はすでに使えなくなったのですか
2026年8月28日の公布と同時に使えなくなったわけではありません。
改正後の内閣府令は2028年3月1日に施行され、監督指針も同日から適用されます。それまでは、現行の規定が存続します。
ただし、金融庁は、施行日を待つことなく、今回示された考え方や制度趣旨を踏まえ、可能な限り速やかに体制整備を行うことが望ましいとしています。
また、今回改正される比較推奨販売の規定とは別に、所属保険会社等や募集上の立場を顧客に明らかにする権限明示義務と、顧客の意向を把握・確認する義務は、すでに現行法上の義務です。2028年までは従来どおりでよい、という意味ではありません。
代理店では、施行直前に帳票だけを変更するのではなく、推奨方針、意向把握の方法、業務フロー、システム、募集人研修、記録・検証方法について、施行に向けて段階的に見直しを進めることが望まれます。
Q2.取扱保険会社すべての見積りを作成する必要がありますか
全案件で一律に、全社・全商品の見積りを作成する必要はありません。
金融庁は、すべての案件について、すべての取扱保険会社の商品を網羅的に見積り・説明したり、商品の細部の差異まで一律に説明したりすることを求めるものではないとしています。
商品内容や保険料水準に大きな差異がない場合には、その旨を説明したうえで、顧客が重視する補償内容、保険料水準、特約など、顧客の判断に役立つ事項を分かりやすく説明することが重要です。
ただし、「全社見積りが一律には必要ない」ことと、「代理店が自由に比較対象を決めてよい」ことは同じではありません。
代理店が比較対象を絞り込み、その中から特定の保険契約を提示・推奨する場合には、その絞り込みが顧客の意向に沿っている必要があります。顧客から「どの保険会社がよいか」と尋ねられた場合にも、顧客の最善の利益を勘案し、顧客意向との関係で、合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由を説明しなければなりません。
例えば、顧客が保険料水準を重視している場合でも、保険料だけを一覧表示すれば対応できるわけではありません。
可能な限り同一または近似の条件で比較することが望ましく、補償内容、保険金額、保険期間、特約、免責金額、引受条件などの違いも踏まえて説明する必要があります。
一方、「事務に慣れている」「取扱件数が多い」「手数料が高い」「保険会社との関係が深い」といった代理店側の事情だけで、比較対象を限定したり、特定の商品へ誘導したりすることは適切ではありません。
Q3.顧客が「見積比較は不要」「代理店に任せる」と言った場合はどうなりますか
その発言だけで、代理店が任意に保険会社や商品を選べるわけではありません。
金融庁は、顧客が「営業スタッフがおすすめする商品でよい」と述べた場合であっても、その意思表示だけをもって、代理店が任意に特定の保険会社または保険契約を選別し、提示・推奨することは適切ではないとしています。
補償内容、保険料水準、特約など、顧客が重視し得る事項を確認し、可能な限り顧客の意向の形成を促し、または意向を明確にする必要があります。そのうえで、把握した顧客意向に沿って、合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由に基づき、保険契約を選別・提示・推奨することが重要です。
実務上は、例えば次のような質問が考えられます。
以下は、金融庁回答の趣旨を踏まえた編集部による質問例です。
保険料を抑えることと、補償を充実させることでは、どちらをより重視しますか。
事故時の代車費用や弁護士費用の補償は必要ですか。
免責金額を設定して保険料を抑える方法については、どのように考えますか。
事故受付体制や事故後のサポートについて、重視する点はありますか。
ただし、あらかじめ推奨する保険会社や商品を決め、その商品に適合する回答を顧客から引き出すような質問設計は避けなければなりません。
質問の選択肢、表示順、画面の導線、募集人の話法などによって、顧客の意向が特定の商品へ誘導されないようにする必要があります。
また、顧客から「比較は不要」と言われた場合であっても、手数料水準、販売目標、保険会社からの便宜供与などを理由に特定の商品へ誘導することは適切ではありません。
Q4.顧客から保険会社や商品を指定された「指名買い」はどう扱いますか
顧客が代理店からの選別・提案を受けず、自らの主体的な判断だけで特定の保険会社または保険契約を指定し、その結果として一つの保険契約が選択された場合は、直ちにロに係る対応が必要となるものではありません。
ただし、指名買いであっても、通常の意向把握・確認が不要になるわけではありません。
顧客の状況や意向に照らして他の商品も検討する余地がある場合には、意向把握・確認義務や比較推奨販売に関する規制の趣旨を踏まえた対応が求められます。
また、顧客が特定の保険会社だけを指定した場合でも、その保険会社の中に二以上の比較可能な同種の保険契約があり、代理店がその中から一つを選別・提案するのであれば、その実態に応じてロに係る対応が問題となります。
これは、金融庁が、二以上の比較可能な同種の保険契約から代理店が保険契約を選別・提案する場合にはロへの対応が必要としていることから導かれる整理です。
顧客が特定の商品を選択した後、代理店が他の商品と比較して説明する場合には、比較説明に関するイの規定が適用されます。
形式上は顧客からの指定であっても、その前段階の画面表示、資料の提示順、募集人の話法、保険会社名の見せ方などによって代理店が誘導していた場合には、顧客の主体的な判断だけで選択されたものとは評価されない可能性があります。
Q5.更改契約は比較推奨販売の対象外ですか
更改契約であることだけを理由に、一律に比較推奨販売の対象外とすることはできません。
満期を迎える契約についても、顧客の意向やリスク状況は変化する可能性があります。そのため、既契約の内容・特性を踏まえて顧客の意向を把握し、ロに係る対応が必要かを個別具体的に判断します。
契約継続に関する保険募集を行う場合は、次の事項を踏まえ、顧客が継続の要否や内容を判断できるよう、必要な情報提供と意向確認を行う必要があります。
- 既契約の内容と特性
- 商品改定の有無
- 補償内容の変更
- 保険料等の変更
- 顧客の生活環境、リスク状況、保険ニーズの変化
過去の募集時に把握した意向を参考にすること自体は否定されません。ただし、過去の意向だけをもって、満期時点でも同じ意向であると決めつけることは適切ではありません。
一方、代理店による商品選別・提案が実質的に伴わず、顧客が自らの主体的な判断だけで、既契約と同じ内容または大きく異ならない内容での継続を希望し、一つの保険契約が選ばれた場合は、直ちにロに係る対応が必要になるものではありません。
ただし、更改時に他の商品との比較説明を行えばイが、二以上の比較可能な同種の保険契約から商品を選別・提案すればロが問題となります。
実務上の確認例
更改時には、例えば次の事項を確認しておくことが考えられます。
- 契約者・被保険者の生活環境やリスク状況に変化がないか
- 既契約の商品内容、補償内容、保険料等に変更がないか
- 商品改定が行われていないか
- 顧客が自ら同内容または大きく変わらない内容での継続を希望しているか
- 代理店が他契約との比較や商品選別を行っていないか
- 顧客が他の商品や保険会社の説明を希望していないか
顧客の具体的な意向を確認せず、代理店側が「前年と同じ内容でよいですね」と結論を先取りするような運用には注意が必要です。
自動継続はどう扱うか
保険会社または代理店が、既存契約が自動継続される旨を案内するだけで、保険募集に該当する行為を伴わない場合は、イまたはロに係る対応は求められません。
一方、その案内に契約内容の変更提案、補償拡充プランの提示、他契約との比較説明、特定契約の選別・提案が含まれる場合には、その実態に応じてイまたはロへの対応が必要となります。
また、保険会社が自動継続の案内を行い、代理店がその募集に関与していない場合は、代理店に情報提供義務や意向把握・確認義務が課されるものではありません。
ただし、代理店が満期後の問い合わせ、条件変更の提案、継続手続の案内などに関与する場合は、その行為が保険募集に該当するかを、内容や態様に応じて個別具体的に判断する必要があります。
Q6.代理店独自の「推奨商品群」を設定できますか
顧客の意向とは無関係に、代理店独自の判断だけで固定的な推奨商品群を設定し、それ以外の商品を比較推奨販売の対象から外すことは適切ではありません。
比較推奨販売における「二以上の比較可能な同種の保険契約」は、代理店委託契約またはそれに基づく覚書等によって、代理店が取り扱うこととされている保険契約を前提に判断されます。
代理店の内部方針だけで取扱保険会社や商品を限定し、顧客の商品選択の機会を実質的に狭める業務運営は適切ではありません。
金融庁は、代理店委託契約等における取扱商品の中から、代理店が独自の判断だけで、あらかじめ「推奨保険会社群」や「比較対象保険会社群」を設定し、それ以外の商品を比較推奨販売の対象外とすることは適切ではないとしています。
新規募集を停止する商品や種目がある場合は、代理店内部の取扱方針だけで処理するのではなく、代理店委託契約や覚書等における取扱範囲と実際の募集実態を整合させることが重要です。
形式的に委託範囲を狭め、特定の保険会社や商品を優先することを目的とした取扱範囲の変更は、制度の潜脱として問題となる可能性があります。
Q7.「事故対応が良い」「一番売れている」は推奨理由になりますか
「事故対応が良い」という説明だけでは、一般に抽象的です。
顧客が事故対応を重視している場合は、その内容を具体化する必要があります。金融庁は、次のような事項を例示しています。
- 事故受付時間
- ロードサービス
- 示談交渉サービスの有無
- 保険金支払手続
- 事故後のサポート内容
これらのうち顧客が何を重視しているのかを確認し、各商品の特性や保険料水準と合わせて分かりやすく説明することが考えられます。
推奨理由は必ずしも数値化された情報に限られませんが、募集人の主観的な評価や属人的な事情だけを提案理由とすることは適切ではありません。
「当代理店で一番売れている」「契約数が多い」といった情報については、顧客自身が売れ筋や他の顧客の契約動向を参考にしたいという意向を示している場合、参考情報として提示することは考えられます。
ただし、契約数ランキングなどは、代理店の販売方針、手数料水準、保険会社からの便宜供与、過去の推奨方法等の影響を受ける可能性があります。ランキングだけを主たる理由として特定の商品を推奨することは適切ではありません。
Q8.比較システムの結果どおりに提案すれば問題ありませんか
システムの出力結果だけでは足りません。
比較ツールやITシステムは、商品改定や特約の差異を反映し、募集人ごとの対応を平準化する手段になり得ます。
しかし、システムに表示された保険料一覧や、自動的に選ばれた商品をそのまま提示しただけでは、顧客の意向を踏まえた比較推奨販売と評価されるものではありません。
システムを利用する場合は、少なくとも次の観点を点検する必要があります。
- 商品データは正確かつ最新か
- 比較条件は可能な限りそろっているか
- 補償、特約、免責金額、引受条件等の違いを確認できるか
- 顧客の意向と選別結果が整合しているか
- 表示順や質問の選択肢が特定商品への誘導になっていないか
- 選別ロジックに合理性があるか
- 特定の保険会社に不当に偏る結果になっていないか
- 選別結果や推奨理由を事後的に確認できるか
意向項目、商品データ、選別ロジック、選別理由、操作ログ等を標準化・システム化することは、募集人の主観に過度に依存しない運用を実現する有効な方法の一つとされています。
一方、特定のシステムや選別ロジックの導入が一律に義務付けられているわけではありません。システムを利用する場合にも、データの正確性・更新性、選別ロジックの合理性、顧客意向との整合性、特定保険会社への偏りを継続的に確認し、必要に応じて改善することが重要です。
Q9.どこまで記録を残す必要がありますか
比較推奨販売を行った場合には、その実施状況の適切性を後から確認・検証し、必要な改善につなげられるよう、記録や証跡を作成・保存する体制が必要です。
ただし、すべての案件について、顧客との全会話や反応、代理店内部の詳細な判断過程を、逐語的かつ網羅的に記録することまで一律に求められているわけではありません。
金融庁が以下を一律の必須記録項目として定めているわけではありませんが、記録する事項としては、例えば次のようなものが考えられます。
- 顧客の主な意向
- 意向を把握した方法
- 顧客属性
- 比較・選別の対象範囲
- 提示・推奨した保険契約
- 提示・推奨の基準や理由
- 顧客への説明内容の概要
- 顧客意向が途中で変化した場合の経緯
重要なのは、当該募集が顧客の意向に沿って合理的に行われたかを、事後的に確認できる程度の記録・証跡が残っていることです。
保存媒体は紙に限定されません。電子データ、システム入力記録、音声データ、録画データなども利用できます。また、すべての案件で顧客の署名・押印付き書面を取得することが一律に求められているわけではありません。
パンフレット、見積書、チェックリスト、意向確認シート、推奨判断結果シートなどを保存し、比較ポイントや推奨理由を要約して記録する方法も、事後検証が可能であれば認められます。
保存期間にも一律の年数は示されていません。代理店は、契約の性質、保険期間、募集形態、苦情・紛争対応、顧客保護、個人情報保護、事後検証の必要性などを踏まえ、合理的な保存期間を社内規則等で定めて運用します。
モニタリングについても全件確認が一律に求められるわけではありません。
代理店の規模・業務特性、募集形態、苦情・不祥事の発生状況、特定保険会社・商品への偏り、募集人・拠点ごとの傾向等を踏まえ、サンプリングや重点確認を含むリスクベースの方法を採用することが考えられます。
Q10.共同募集では、幹事代理店だけが対応すればよいですか
共同募集における『幹事代理店』という実務上の役割分担だけで、他の募集人の法令上の義務が当然に移るわけではありません。
共同募集の場合に、比較推奨販売に関する規定がどの代理店に適用されるかは、次のような実態を踏まえて個別具体的に判断されます。
- 各代理店が顧客の意向形成にどの程度関与したか
- どの代理店がどのような説明を行ったか
- どの代理店が商品を選別・提案したか
- 顧客との接点や募集行為の実態
- 契約上・実務上の役割分担
共同募集に関与する他の代理店が取り扱っていないことだけを理由に、自社が代理店委託契約上取り扱うことのできる商品を比較推奨販売の対象から外すことは適切ではありません。
実務上は、共同募集契約書、顧客向けの説明資料、募集記録等において、各代理店の役割分担を明確にしておくことが望まれます。
ただし、比較推奨販売に関する責任や対応範囲は、共同募集契約書に記載した役割だけで決まるものではありません。実際に誰が顧客の意向形成に関与し、誰が説明・比較・選別・提案を行ったかが重視されます。
Q11.自賠責保険も比較推奨販売の対象ですか
自賠責保険は、加入が法律で義務付けられ、補償内容や保険料が法令等によって定められています。このため、一般の任意保険のように商品内容や保険料を比較して選択する性質は限定的です。
金融庁は、代理店が複数の保険会社の自賠責保険を取り扱っている場合であっても、ロに係る対応が必要となるものではないとしています。
ただし、代理店が保険会社を自由に決めてよいわけではありません。
顧客から保険会社の指定がある場合は、その希望を踏まえて対応します。指定がない場合でも、複数の保険会社を取り扱っていることを顧客に明らかにしたうえで、例えば次のような希望がないかを確認することが重要です。
- 前契約と同じ保険会社を希望するか
- 任意保険と同じ保険会社を希望するか
- その他、希望する保険会社があるか
便宜供与、取引関係、代理店の事務上の都合などを理由に、顧客の希望を確認せず特定の保険会社を優先することは適切ではありません。
Q12.小規模代理店も同じ体制を整備する必要がありますか
今回の比較推奨販売に関する改正は、特定の事業規模だけを対象とするものではありません。
乗合代理店には、規模や業務特性、募集実務、募集形態などを踏まえ、適切かつ主体的に業務を行える実効的な体制を整備することが求められます。
ただし、小規模代理店に対して、大規模代理店と同じ部門、人員、システムを一律に整備することまで求めているわけではありません。
金融庁は、一律の記録フォーマット、保存媒体、保存期間、検証方法や、特定の比較システムの導入を定めていません。各代理店が自社の実態に応じて、合理的かつ実効的な方法を採用することが重要です。
編集部による小規模代理店の実務設計例
以下は、金融庁が一律の部門・人員・システムを求めていないことを踏まえた、INSURANCE JOURNAL編集部による実務上の設計例です。
- 代理店主やコンプライアンス担当者が、定期的に募集記録を確認する
- 毎月または四半期ごとに、一定件数を抽出して確認する
- 特定の保険会社・商品への偏りを集計する
- 苦情案件、意向変更案件、例外的な募集案件を重点的に確認する
- 問題があった募集人に対して、研修や個別指導を行う
- 保険会社が提供する商品情報、研修、照会窓口を活用する
- 確認結果を踏まえ、質問項目、推奨理由、記録方法を見直す
保険会社が提供する資料や研修を利用すること自体は否定されません。
ただし、比較・選別・推奨の基準や理由を主体的に定め、自社の募集実態に合わせて運用・確認・改善する責任は代理店にあります。
Q13.保険会社は代理店をどこまで支援すべきですか
各保険会社は、自社が保険募集を委託する代理店に対して、法令等遵守と適正な保険募集を確保する観点から、必要かつ適切な教育・管理・指導を行う責任を負います。
金融庁は、乗合代理店が比較推奨販売を適切に行えるよう、各保険会社が次の対応を適切に行う必要があるとしています。
- 自社商品に関する情報提供
- 募集人教育
- 商品・引受け等に関する照会対応
- 代理店に対する管理・指導
複数の所属保険会社がある場合でも、一社だけに責任が集約されるものではなく、各保険会社が自らの委託関係に応じた責任を負います。
一方、比較・選別・推奨の基準や理由を主体的に設計するのは代理店です。
保険会社が商品情報や研修、参考資料を提供しても、代理店がそれをそのまま形式的に使用するだけでは十分ではありません。代理店自身が、自社の取扱商品、募集形態、顧客層に合わせた運用を設計し、その適切性を確認・検証する必要があります。
保険会社による代理店監査と情報管理
保険会社が代理店監査等を通じて、比較推奨販売に関する記録や証跡を確認する場合には、他の保険会社の機密情報や、自社の顧客ではない者の個人情報が含まれる可能性があります。
そのため、確認目的に照らして必要かつ相当な範囲で、マスキング、匿名化、データの抽出などを行うことが考えられます。
ただし、機密情報や個人情報への配慮を理由に、確認・検証が形骸化してはなりません。保険会社は、代理店に対する教育・管理・指導の実効性を確保する観点から、比較推奨販売に関する体制整備状況を適切に確認する必要があります。
手数料・販売目標・便宜供与の影響も点検する
代理店は、手数料水準、販売目標、保険会社からの便宜供与、保険会社との取引関係などを理由に、顧客意向に沿わない商品へ誘導してはなりません。
保険会社側でも、代理店手数料、営業施策、各種支援、出向者の配置などが、特定の商品を優先する不適切な誘因になっていないかを点検する必要があります。
今回の改正対応は、募集人の説明方法だけではなく、保険会社と代理店の間にあるインセンティブや支援の在り方まで含めて確認するテーマといえます。
代理店が保険会社に確認しておきたい事項
以下は法令上の一律のチェックリストではなく、制度対応を進める際の実務上の点検例です。
- 代理店委託契約・覚書上の取扱商品と種目の範囲
- 新規募集を停止している商品と既契約の保全方法
- 商品情報や比較データの提供方法
- 商品改定時のデータ更新方法と更新時期
- 募集人研修と商品照会の窓口
- 比較ツールや帳票の提供条件
- 更改・自動継続における標準的な取扱い
- 共同募集における役割分担
- 代理店監査で確認する記録・証跡の範囲
- 機密情報・個人情報のマスキング方法
- 手数料、販売施策、便宜供与等が募集判断へ与える影響の検証方法
保険会社が代理店に確認しておきたい事項
保険会社側では、代理店における比較推奨販売の実効性を確認する観点から、例えば次の事項を点検することが考えられます。
- 推奨方針が顧客意向を起点としているか
- 固定的な推奨商品群だけを案内していないか
- 代理店委託契約上の取扱範囲と募集実態が一致しているか
- 手数料、販売目標、取扱件数だけで商品を選別していないか
- 意向把握の質問や画面が特定商品への誘導になっていないか
- 比較システムのデータと選別ロジックを検証しているか
- 顧客意向、比較対象、推奨理由を事後確認できるか
- 特定の保険会社・商品への偏りをモニタリングしているか
- 苦情や不適切事案を業務改善へつなげているか
- 出向者、営業支援、便宜供与等が推奨判断へ影響していないか
- 問題を発見した後の是正・再発防止手続が定められているか
形式的な「ロ方式」への置き換えでは足りない
ハに相当する規定の削除後、従来の商品選別や推奨方針を実質的に変えず、帳票上だけ「顧客意向に沿って選別した」と記載する形式的な運用は、今回の改正趣旨に適合せず、適切な比較推奨販売とは評価されない可能性があります。
一方で、金融庁は、すべての案件で全社・全商品を画一的に比較することや、顧客との会話や判断過程を詳細かつ網羅的に記録することを一律に求めているわけでもありません。
求められるのは、顧客が何を重視しているのかを確認し、その意向に沿って商品を選別し、選別・推奨した基準や理由を分かりやすく説明し、後から適切性を確認できる状態にすることです。
比較推奨販売への対応は、募集人の話法や帳票の改訂だけでは完結しません。
取扱商品の範囲、商品データ、比較システム、推奨基準、記録・検証方法、代理店手数料、保険会社による営業支援、出向、便宜供与など、保険会社と代理店の取引関係やインセンティブ構造まで含めて点検する必要があります。
2028年3月に向けて重要なのは、書類上の「ハからロへの変更」ではなく、顧客意向を起点として商品を選び、その判断を説明・検証できる募集プロセスへ実質的に移行することです。
記事注記:
本稿は、2026年8月31日時点で公表されている金融庁の報道発表、保険業法施行規則等の新旧対照表、「保険会社向けの総合的な監督指針」の新旧対照表、パブリックコメントに対する金融庁の回答を基に、代表的な実務論点を一般的に整理したものです。
金融庁のパブリックコメント回答には、募集の内容・態様や個別具体的な事情を踏まえて判断すべきとされている論点が含まれます。個別案件については、顧客とのやり取り、代理店委託契約、取扱商品、募集形態、共同募集の実態、システム設計等を踏まえて判断する必要があります。
本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による解説・分析です。制度・商品の詳細は公式発表をご確認ください。
