【2026年3月30日 金融庁パブコメ回答から読み解く】2026年施行の改正保険業法|大規模乗合代理店に求められる体制整備と実務対応
金融庁のパブリックコメント回答から、該当基準・責任者配置・苦情処理・内部監査・兼業管理を読み解く
目次
2026年6月1日、令和7年改正保険業法に伴う2026年6月1日、令和7年改正保険業法に伴う内閣府令等が施行され、改正後の監督指針も同日から適用されました。
金融庁は2026年3月30日、内閣府令等を公布するとともに、寄せられた176件の意見に対する考え方を公表しました。監督指針の改正案についても、28の個人・団体から寄せられた152件の意見に対する回答が示されています。
今回の改正では、特に規模の大きい乗合代理店について、代理店自身の管理体制と、代理店に募集業務を委託する保険会社側の管理体制がともに強化されました。
主な改正項目は、次の5つです。
- 特定大規模乗合保険募集人に対する体制整備義務の強化
- 特定大規模乗合損害保険代理店の兼業業務に関する管理強化
- 保険会社による委託方針の策定・管理責任者の設置
- 保険契約者等に対する過度な便宜供与の禁止
- 海外直接付保などにおける保険仲立人の活用促進
本稿では、このうち保険代理店の実務に直接関係する項目を中心に整理します。
比較推奨販売の改正とは別の制度
2026年8月28日に公表された、乗合代理店の比較説明・推奨販売に関する内閣府令・監督指針の改正は、今回取り上げる6月1日施行分とは別の制度です。比較推奨販売に関する新しい規定は2028年3月1日から施行・適用されます。なお、権限明示義務や意向把握義務は今回の改正対象ではなく、現在も対応が必要です。
まず整理したい2つの「大規模代理店」
今回の制度を理解するうえで注意したいのが、名称の似ている次の2つの区分です。
| 区分 | 主な判定基準 | 主な対応 |
|---|---|---|
| 規模が大きい特定保険募集人 | 生保・損保・少額短期保険を業態ごとに判定し、所属保険会社等が15社以上、または2社以上かつ手数料・報酬等が10億円以上 | 帳簿書類の備付け、事業報告書の作成・提出 |
| 特定大規模乗合生命保険募集人・特定大規模乗合損害保険代理店 | 原則として、該当業態で2社以上の保険会社等に所属し、手数料・報酬等が20億円以上 | 責任者配置、苦情処理、内部監査などの上乗せの体制整備 |
「規模が大きい特定保険募集人」は、従来から事業報告書の提出対象となる区分です。生命保険、損害保険、少額短期保険をそれぞれ別に判定し、どれか一つの業態で基準を満たすと、すべての業態について帳簿の備付けと事業報告書の作成・提出が必要になります。
一方、今回の改正で管理体制が強化された「特定大規模乗合保険募集人」は、特定大規模乗合生命保険募集人と特定大規模乗合損害保険代理店の総称です。
判定基準は、次のように整理されます。
生保または損保のみを取り扱う場合
該当する業態について、2社以上の所属保険会社等から受け取る手数料・報酬等の合計が20億円以上であることが基準です。
生保・損保を兼営している場合
生命保険側の判定では、次の両方を満たす必要があります。
- 2社以上の生命保険会社等から受け取る手数料・報酬等が10億円以上
- 生保・損保の手数料・報酬等の合計が20億円以上
損害保険側の判定も同様で、損保分が10億円以上、かつ生損保合計が20億円以上であることが基準です。合計額に算入される他業態の手数料等は、その業態において2社以上の所属保険会社等がある場合に限られます。
また、特定大規模乗合保険募集人の判定では、少額短期保険業者からの手数料・報酬等は対象外です。
一度基準に該当した代理店は、その後20億円基準を下回った場合でも、翌事業年度と翌々事業年度について、該当業態で2社以上の所属保険会社等から受け取る手数料・報酬等が10億円以上であれば、引き続き特定大規模乗合保険募集人とみなされます。
「手数料等」は募集手数料の名目だけで判断しない
判定対象となる「手数料、報酬その他の対価」は、通常の募集手数料という名称の金銭だけではありません。
金融庁は、保険募集に関して保険会社等から受け取るすべての金銭が対象となり、保険募集に関して受領する金銭が対象となり、加入勧誘に係る金銭の収受があればこれも含まれると説明しています。
また、募集品質に応じて支払われる手数料も対象です。保険募集を再委託している場合、再委託先に支払った金額を差し引くことはできません。一方、消費税は手数料等の額には含まれないとされています。
代理店は、会計上の「代理店手数料」だけを見るのではなく、募集品質連動手数料、加入推奨関連の対価、その他の募集に関連する金銭を含めて判定する必要があります。
営業所ごとに「法令等遵守責任者」を設置
特定大規模乗合保険募集人には、保険募集を行う営業所または事務所ごとに、法令等遵守責任者を置くことが求められます。
法令等遵守責任者の主な役割は、各拠点の役員や募集人に対し、法令等を遵守して保険募集を行うための助言・指導を行うことです。募集に関する相談への回答や研修の実施なども、具体的な業務として想定されています。
原則として拠点ごとに配置しますが、必ずしも全拠点に専任者を1人ずつ置かなければならないわけではありません。
複数拠点を兼務する場合は、次のような要素から、責任者としての業務を実効的に行えるかを判断します。
- 担当する営業所・事務所の数と規模
- 契約件数
- 所属する募集人の人数
- 拠点間の地理的な近接性
- 相談対応や研修を実施できる体制
単に組織図上で担当者を置くだけではなく、役割と職責を実際に果たせるかが重視されます。
なお、法令等遵守責任者が保険募集を行うこと自体は禁止されていません。ただし、法令上、法令等遵守責任者が保険募集を行うことは禁止されていません。ただし、保険募集に従事する者や、保険募集業務に係る責任を有する者とは異なる者を選任することが望ましいとされています。
本店には「統括責任者」を1人設置
法令等遵守責任者を指揮する者として、本店または主たる事務所には統括責任者を置きます。
金融庁は、統括責任者について、原則として法人の本店または主たる事務所に1人設置すべきとしています。必要に応じて、業務を補助する者や部署を設けることが望ましいとされています。
統括責任者に取締役、執行役員、部長といった特定の肩書が求められるわけではありません。代理店の実態に照らして、統括責任者としての業務を適切に行える管理的・監督的地位にあることが必要です。
一方で、統括責任者には営業部門からの独立性が求められ、現に保険募集に従事していないことが要件となります。募集人として登録されていても、実際に保険募集を行っていなければ直ちに要件を欠くものではないとされています。
新たに該当した場合の起算日はいつか
2026年6月1日の施行日時点ですでに基準を満たしていた代理店については、6月1日が「新たに特定大規模乗合保険募集人に該当することとなった日」となります。
施行後に新たに基準を満たす代理店については、判定対象となる事業年度の初日が起算日です。法令等遵守責任者・統括責任者の設置を含む規則で定められた一定の措置については、新たに該当した日から6カ月間の猶予が設けられています。。
決算内容が確定してから基準超過を認識するケースでは、起算日がすでに過去になっている可能性があります。そのため、手数料等が基準に近い代理店は、決算確定後ではなく、事業年度中から該当可能性を試算しておく必要があります。
苦情処理は「受付」だけでは終わらない
特定大規模乗合保険募集人には、苦情を受け付ける窓口を設置し、その連絡先を顧客等に分かりやすい方法で公表することが求められます。
すでに自社のウェブサイトなどで顧客相談窓口を公表しており、必要な要件を満たしている場合は、新たに別の窓口を設ける必要はありません。保険専用の窓口でなくても、保険募集に関する苦情を適切に受け付けられればよいとされています。
苦情を受け付けた後は、単に回答するだけでは足りません。
代理店には、苦情の原因を究明し、必要な改善措置を講じ、申立人に説明するとともに、受付から説明までの経緯を記録・保存することが求められます。
他の代理店との共同募集について、相手代理店を通じて苦情の存在を認識した場合も、その時点で苦情を受け付けたものとして対応する必要があります。
金融庁は、苦情の範囲について画一的な定義を示していません。定義を狭く設定して形式的に管理するのではなく、所属保険会社等の指導も踏まえ、それぞれの代理店が適切に判断することが求められます。
内部監査・社内通報機能は外部委託も可能
特定大規模乗合保険募集人には、内部監査や社内通報・相談に関する体制も求められます。
もっとも、すべての機能を自社内に置かなければならないわけではありません。
親会社や持株会社に苦情窓口、内部監査、内部通報機能を置いている場合でも、自社内に設置した場合と同等に機能するための措置が講じられていれば、体制整備義務を満たし得るとされています。
内部監査についても、外部委託先が適切に監査を行うための体制があり、代理店が監査結果を踏まえて改善を実施できるのであれば、外部委託が否定されるものではありません。
重要なのは、自社内に形式的な監査部門を置くことではなく、監査の独立性と実効性を確保し、指摘された問題を経営改善につなげられるかどうかです。
保険会社には代理店ごとの「委託方針」が必要
今回の改正では、代理店だけでなく、特定大規模乗合保険募集人に保険募集を委託する保険会社側にも対応が求められます。
保険会社は、対象となる代理店への委託方針を策定し、その代理店の法令等遵守状況を検証する管理責任者を設置します。
委託方針は、原則として委託先の代理店ごとに定める必要があります。同じ内容になる場合はまとめて作成できますが、単に「大型代理店」「自動車ディーラー」といったチャネル単位で包括的に作成すれば足りるものではありません。
一方、委託方針は代理店委託契約そのものではありません。
金融庁は、保険会社と代理店が委託方針について協議・合意することや、代理店に開示することを法律上義務付けてはいないと説明しています。ただし、既存の代理店委託契約に委託方針と整合しない条項がある場合には、契約を変更する必要があります。
また、一つの代理店について複数の管理責任者を置くことや、一人の管理責任者が複数の代理店を担当することも認められています。その場合は、役割分担や担当範囲を明確にする必要があります。
手数料がゼロの保険会社にも通知が必要
特定大規模乗合保険募集人に該当した場合、その旨を所属保険会社等へ遅滞なく通知しなければなりません。
通知対象には、判定事業年度の手数料収入がゼロであっても、代理店委託契約を締結している保険会社が含まれます。該当する保険会社側にも、その代理店に関する管理責任者の設置が必要とされています。
施行日時点ですでに基準を満たしていた場合は、2026年6月1日から遅滞なく通知する必要があります。施行後に基準を満たした場合は、直前事業年度の決算内容が確定し、該当することが明らかになった後、直ちに通知することも認められています。
自動車修理を兼営する代理店への管理を強化
兼業業務に関する今回の上乗せ規制では、とりわけ自動車修理等を兼業する特定大規模乗合損害保険代理店と、それを管理する損害保険会社の体制が重要な論点となっています。
損害保険会社には、顧客の利益を不当に害するおそれのある業務を特定し、保険募集を担当する営業部門と保険金支払部門を適切に分離するなど、保険金支払業務の公正性を確保する体制が求められます。
代理店側の管理措置に疑義が生じた場合には、通常よりも厳格な保険金支払査定を行うなどの対応も想定されています。
対象となる「自動車の修理業務」には、四輪車だけでなく二輪車も含まれます。また、自動車修理を主たる事業としていなくても、一部で修理業務を行っていれば対象となります。
一方、故障や損傷のない自動車の洗浄、給油、装飾、改造、検査のみを行う業務は含まれません。自動車販売、レンタカー、レッカー業務も、修理業務の付随業務には含まれないとされています。
修理そのものを他の修理工場に委託し、自社では見積りや保険会社とのやり取りだけを行っている場合でも、実態によっては自動車修理業務とその付随業務を行っていると判断されます。
過度な便宜供与の禁止対象を拡大
改正では、保険会社等による過度な便宜供与の禁止について、保険契約者や被保険者本人だけでなく、これらの者と密接な関係を有する者まで規制対象が広げられました。
ただし、保険契約者や関係者に対する物品購入や役務提供などが、すべて禁止されるわけではありません。
金融庁は、禁止されるのは「取引上の社会通念に照らし相当であると認められないもの」であり、便宜供与を一律に禁止する制度ではないと説明しています。個別の取引について、必要性、規模、価格、一般的な取引条件との比較などから、実態に即して判断することになります。
なお、これとは別に、監督指針では保険会社から保険代理店等への便宜供与についても、商品の優先的取扱いを誘引しないよう管理が求められている。
保険仲立人の海外直接付保への関与も拡大
今回の改正には、保険仲立人の活用促進に向けた制度整備も含まれます。
保険業法に基づく許可を受けた海外直接付保契約について、保険仲立人が媒介できるよう手続きが整備されました。あわせて、保険仲立人に関する不祥事件の届出義務について、届出事項などが定められています。
金融庁は、法第186条第2項に基づく許可に係る保険契約について、保険仲立人が媒介を行うことができると説明しています。
事業報告書も新様式へ
「規模が大きい特定保険募集人」に該当する代理店が提出する事業報告書も改正されました。
事業年度末が2026年3月以降の場合は、新様式による提出が求められます。3月末決算の代理店の場合、2026年3月31日を判定日として、事業年度終了後3カ月以内に新様式の事業報告書を提出する扱いです。
新様式の具体的な記載方法については、所属保険会社等が提供する作成要領や対応ガイド、管轄財務局等の案内を確認する必要があります。
代理店が確認したい実務チェックリスト
今回の改正に対応するうえでは、少なくとも次の項目を確認しておく必要があります。
1.手数料等の集計範囲
通常の代理店手数料だけでなく、募集品質連動手数料、加入推奨に関する対価、再委託を含む募集関連収入を洗い出します。
2.営業所・事務所の整理
どの拠点が「保険募集の業務を行う営業所又は事務所」に該当するかを整理し、拠点ごとの募集人数、契約件数、管理範囲を確認します。
3.責任者の配置と独立性
法令等遵守責任者と統括責任者の候補者を選定し、営業実績に対する責任、募集業務との兼務、権限、報告経路を明確にします。
4.苦情処理の記録
苦情の受付窓口だけでなく、原因究明、改善措置、顧客への説明、記録保存、経営への報告までを一連の手続きとして整備します。
5.内部監査・社内通報
内部監査の独立性を確認し、外部委託する場合は委託先の選定基準、監査結果の報告、改善状況の確認までを社内規則等に定めます。
6.兼業業務と保険金請求の関係
自動車修理、見積り、損害調査、保険金請求、レンタカーなどの業務を棚卸しし、保険募集部門と保険金請求・修理部門との役割や牽制関係を整理します。
求められるのは「責任者を置いた」という形式ではない
今回の改正では、代理店が自らの業務を管理し、問題を発見し、改善する仕組みが従来以上に求められています。
一方で、金融庁のパブリックコメント回答を見ると、すべての代理店に同じ組織形態を求めているわけではありません。
法令等遵守責任者の複数拠点兼務、既存の苦情窓口の活用、親会社の内部通報制度の利用、内部監査の外部委託など、代理店の規模や組織に応じた設計は認められています。
ただし、その前提となるのは、制度が実際に機能していることです。
組織図に責任者の名前を記載するだけではなく、誰が、どの情報を受け取り、どのように判断し、経営へ報告し、改善を確認するのか。その一連の流れを規程・記録・実績によって説明できる体制が、これからの代理店経営には求められます。
記事注記:
本稿は、2026年8月28日時点で公表されている金融庁資料、内閣府令、監督指針およびパブリックコメントに対する金融庁の回答を基に、保険代理店の実務上の論点を一般的に整理したものです。個別代理店の該当性や対応期限は、事業年度、所属保険会社数、手数料等の内容、兼業業務の実態によって異なります。
本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による解説・分析です。制度・商品の詳細は公式発表をご確認ください。