ハ方式とは?ロ方式との違いと2026年の制度見直しを解説
2026年6月1日、改正保険業法(令和7年法律第54号)と関連する施行規則・監督指針の一部が施行されました。一方、乗合代理店の比較推奨販売についても、顧客の意向に沿った商品選別・推奨を徹底するため、保険業法施行規則第227条の2や監督指針の見直しが進められています。
2026年6月1日、改正保険業法(令和7年法律第54号)と関連する施行規則・監督指針の一部が施行されました。一方、乗合代理店の比較推奨販売についても、顧客の意向に沿った商品選別・推奨を徹底するため、保険業法施行規則第227条の2や監督指針の見直しが進められています。改正案では、従来「ハ方式」と呼ばれてきた情報提供類型を削除し、「イ又はロ」の類型に整理する方向が示されました。ただし、比較推奨販売関係の最終的な規定内容と施行時期は、金融庁の最新公表資料を確認する必要があります。最終的な規定内容によっては、乗合代理店において、商品を絞り込む基準や推奨理由の説明、社内ルールなどの見直しが必要になる可能性があります。本稿では、ハ方式・ロ方式それぞれの考え方から、見直しの背景にある考え方、代理店実務への影響、そして今後何をすべきかを整理します。
ハ方式とは
現行の保険業法施行規則第227条の2第3項第4号ハに対応する情報提供類型として整理されてきたのが、いわゆる「ハ方式」です。顧客の意向に沿って商品を選別する方法とは別に、代理店が定めた商品特性や経営方針、販売方針などの基準・理由にもとづいて商品を選別し、推奨する場合の情報提供類型です。
例えば、「当代理店の取扱方針として特定の保険会社の商品を推奨している」「事務手続や保険会社との取引体制などを考慮して特定の商品を推奨している」といった、顧客の個別意向以外の代理店側の基準を理由として示すケースが考えられます。ハ方式であっても意向把握・確認義務は適用されます。ただし、比較可能な商品の中から特定の商品を選別・推奨する理由について、顧客の個別意向とは異なる代理店側の基準を用いることができた点に特徴があります。
実務上のポイント
ハ方式は「意向把握が不要」という方式ではありません。意向把握・確認義務そのものは2016年施行の改正保険業法で既に代理店全体に課されています。ハ方式が認めていたのは、あくまで、顧客の個別意向とは別に、代理店が定めた選定基準や推奨方針を理由として示すことができる点であり、そこが今回の見直しで問題視されています。
ロ方式とは
ロ方式は、同じく施行規則第227条の2第3項第4号ロに規定される方式で、顧客が重視する事項を把握したうえで、その意向にもとづいて比較可能な同種の保険契約を選別し、その選別した商品を提示・推奨する場合の情報提供類型です。推奨の起点が「代理店の都合」ではなく「顧客の意向」にある点が、ハ方式と呼ばれる類型との違いです。
なお、「ハ方式」「ロ方式」はいずれも法律上の制度名称ではなく、施行規則の号区分である「ハ」「ロ」に由来する実務上の呼称です。
ハ方式とロ方式の違い(比較表)
| 項目 | ハ方式と呼ばれる類型 | ロ方式と呼ばれる類型 |
|---|---|---|
| 商品選別の基準 | 代理店が定めた商品特性、経営方針、販売方針など | 顧客が重視する保障・補償、保険料その他の意向 |
| 意向把握 | 必要 | 必要 |
| 推奨理由 | 代理店の選定基準や理由を説明 | 顧客の意向と商品を選別した理由との関係を説明 |
| 顧客への情報提供 | 取扱商品の範囲、選別理由などを説明 | 顧客意向にもとづく選別・推奨の理由を説明 |
| 社内管理 | 選定基準や顧客への説明内容を確認できる体制が必要 | 顧客意向と選別・推奨理由との関係を確認できる体制が重要 |
| 制度見直し | 改正案では削除する方向 | 改正案では引き続き規定する方向 |
| 最終的な取扱い | 金融庁の最新公表資料による確認が必要 | 金融庁の最新公表資料による確認が必要 |
なぜハ方式の見直しが検討されているのか
今回の見直しの背景には、保険業界に限らない、金融サービス提供全体に対する規制の潮流があります。金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律では、金融サービスを提供する事業者等に対し、顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に業務を遂行する義務が定められています。この義務は、顧客に必ず最高の結果を与える結果保証義務ではなく、事業者の収益獲得自体を否定するものでもありません。
この「誠実公正義務」「顧客等の最善利益の勘案」という考え方に照らし、顧客の個別意向とは異なる代理店側の事情を起点に商品を選別する方法については、顧客本位の業務運営や最善利益義務との関係から、見直しの必要性が議論されてきました。金融庁が公表した監督指針等の一部改正案でも、比較推奨販売に関する情報提供類型を「イ又はロ」に整理し、ハ方式に相当する取扱いを削除する方向性が示されています。
比較推奨販売の見直しは、最善利益義務だけを根拠とするものではありません。損害保険業をめぐる一連の問題を受け、代理店の推奨が顧客の意向ではなく、保険会社との関係や代理店側の事情に左右されていないかという点が、制度面でも改めて検討されました。「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」報告書や、金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書の提言も、この見直しの背景として示されています。
言い換えると、今回の見直しは単なる手続き上の類型整理ではなく、「代理店の販売しやすさ」よりも、顧客が示した意向に沿って商品が選別・推奨されているかを優先する、比較推奨販売の考え方そのものの転換だと捉えるべきでしょう。
代理店への影響
ハ方式に相当する類型の見直しによって、乗合代理店の募集現場では次のような変化が生じる可能性があります。
1. 商品選別と顧客意向の結び付け
商品特性や募集形態に応じて、顧客が重視する保障・補償、保険料、保険期間その他の条件を具体化し、それらが商品選別にどのように反映されたかを確認できる運用が重要になります。ヒアリングが形式的・簡易的な代理店ほど、体制の見直しが必要になる可能性があります。
2. 推奨理由の構成が変わる可能性
「取引実績」「取扱商品の中心が〇〇社」といった代理店側の事情だけを、顧客にその商品を推奨する中心的な理由とすることは難しくなり、「顧客の意向〇〇を踏まえ、比較可能な同種の商品群のうちこの商品を選別・推奨した」という説明構成への見直しが必要になる可能性があります。営業トークスクリプトやヒアリングシートの改訂が実務上のポイントになりやすい部分です。
3. 記録・証跡管理の重要性
顧客の意向、商品を選別した理由、顧客への説明内容について、管理者等が事後的に確認できる体制を整えることが重要です。法令・監督指針は通常、特定のシステム導入を一律に求めるものではありません。ただし、紙や表計算ソフトを含め、採用する管理方法によって必要な確認・点検が実際に機能するかを検証する必要があります。取扱件数や確認項目が多い場合には、手作業による転記漏れや確認漏れが起こりやすくなるため、チェック機能や管理方法を見直す必要があります。
4. 取扱商品構成・手数料体系への波及
顧客意向以外の理由による商品選別が見直されれば、代理店の商品選定方針や、保険会社との取引関係、募集人の評価方法などにも影響が及ぶ可能性があります。ただし、具体的な影響は各代理店の取扱商品や現在の募集方法によって異なります。企業内代理店や兼業代理店であっても、複数の保険会社の商品を取り扱い、比較推奨販売を行っている場合には、見直しの影響を確認する必要があります。また、保険会社側にも、委託先代理店の比較推奨販売を適切に管理・指導することが求められます。
今後何をすべきか
比較推奨販売に関する最終的な規則・監督指針の公表に備え、代理店側で優先的に着手すべき対応は次のとおりです。
- 意向把握・ヒアリングフローの見直し:現行のヒアリングシート・トークスクリプトが、顧客が重視する事項と、商品を選別・推奨した理由との関係を説明できる運用になっているかを点検する
- 推奨理由の説明ロジックの再構築:顧客の個別意向と結び付かず、代理店の取引方針や取扱方針だけを推奨理由としている説明文言・提案資料がないか確認し、「顧客意向との整合性」を軸にした構成へ書き換える
- 記録・証跡管理の仕組み化:意向把握、商品の選別、推奨理由の説明、最終的な意向確認について、必要な情報を相互に確認できる管理方法を検討する。現在の管理方法で、入力漏れの防止、管理者による確認、記録の検索・保存が適切に行えるかを点検する
- 社内研修・営業担当者への周知:顧客意向と結び付かない代理店側の事情だけを推奨理由として説明していないか、ロールプレイ等でチェックする
- 監督指針・パブリックコメントの継続的なフォロー:金融庁が公表する監督指針等の改正案・確定内容を継続的に確認し、社内規程・マニュアルに反映する
注意点
本稿執筆時点で確認できる金融庁の公表資料では、2026年6月1日に施行された改正府令・監督指針と、比較推奨販売に関して別途公表予定とされた施行規則第227条の2等の改正を区別する必要があります。本稿のハ方式・ロ方式に関する説明には、2025年12月に公表された改正案の内容が含まれます。最終的な規定、公布日、施行日は金融庁の最新資料をご確認ください。社内対応の最終判断は自社のコンプライアンス部門・顧問弁護士等と行ってください。
まとめ
ハ方式をめぐる制度見直しの核心は、単に条文上の「ハ」が削除されるかどうかだけではありません。乗合代理店が複数の商品から特定の商品を選別・推奨する際に、その起点をどこに置くのかが問われています。
従来、ハ方式と呼ばれてきた類型では、顧客の意向とは別に、代理店が定めた商品選定基準や取扱方針を推奨理由として示すことができました。一方、改正案では、顧客が重視する事項を起点に商品を選別し、その意向と推奨理由との関係を説明する方向が示されています。
もっとも、意向把握義務は従来から存在しており、ハ方式であれば顧客の意向を確認しなくてよかったわけではありません。また、比較推奨販売に関する最終的な規定内容や施行時期は、2026年6月1日に施行された改正保険業法・関連府令とは切り分けて確認する必要があります。
代理店に求められるのは、結論を先取りして形式だけを変えることではありません。顧客が何を重視しているのか、その意向を受けてなぜその商品を選別・推奨したのかを、顧客に説明し、代理店として後から確認できる運用になっているかを点検することです。金融庁の最終公表を継続的に確認しながら、必要に応じてヒアリング項目、提案資料、推奨理由の記載方法、研修、管理態勢を見直すことが重要です。
本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による取材・調査・分析をもとに構成しています。