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"聞いたつもり"で終わらせない。保険募集の意向把握、実務のポイントとAI活用

"聞いたつもり"で終わらせない。保険募集の意向把握、実務のポイントとAI活用

「意向把握はきちんとやっている」——多くの募集人がそう思っています。しかし顧客の意向を確認していたとしても、その内容や提案との関係が記録されていなければ、後から募集プロセスの適切性を確認することが難しくなります。

目次
  1. 意向把握とは
  2. なぜ意向把握が重要なのか
  3. 保険業法・監督指針との関係
  4. 意向把握で確認すべき事項
  5. よくある不十分な事例
  6. 意向把握記録の書き方
  7. AI・システムはどこまで活用できるか
  8. 今後代理店が取り組むべきこと

「意向把握はきちんとやっている」——多くの募集人がそう思っています。しかし顧客の意向を確認していたとしても、その内容や提案との関係が記録されていなければ、後から募集プロセスの適切性を確認することが難しくなります。苦情やトラブルが発生した際には、顧客の意向をどのように把握し、その意向と提案内容をどのように結びつけたのかが、重要な確認事項になります。本稿では、意向把握の基本的な考え方から、保険業法・監督指針上の位置づけ、実務上確認されることが多い事項、現場で見直しが必要になりやすい事例、記録の書き方、そしてAI・システムをどこまで活用してよいかまでを整理します。

意向把握とは

意向把握・確認とは、保険募集にあたり顧客の意向を把握し、その意向に沿った保険契約の提案や説明を行ったうえで、申し込もうとする契約内容が顧客の意向に合致していることを、顧客自身が確認できる機会を確保する一連のプロセスです。

意向把握・確認義務によって求められる行為は、大きく次の4つに整理できます。

  • 顧客の意向を把握すること
  • 顧客の意向に沿った保険契約の提案を行うこと
  • 提案する保険契約の内容と、顧客の意向との関係を分かりやすく説明すること
  • 顧客の意向と契約内容が合致していることを、顧客自身が確認する機会を設けること

重要なのは、意向把握が「最初に一度聞けば終わり」のものではない点です。商品説明などを通じて顧客の意向が変化した場合には、その経緯を踏まえ、最終的な意向と申し込む契約内容が合致していることを確認できるようにする必要があります。

なぜ意向把握が重要なのか

意向把握が形骸化すると、顧客が求めていた保障・補償や条件と、実際の契約内容との間にずれが生じるおそれがあるだけでなく、代理店側にとっても「言った・言わない」の水掛け論に発展しやすくなります。意向把握の経緯と提案内容を適切に記録しておくことは、顧客への説明の一貫性を保ち、苦情発生時に募集プロセスを確認するうえでも重要です。

逆に言えば、意向把握が不十分なまま契約が成立してしまうと、後から「そんな保障は望んでいなかった」「説明を受けていない」といったトラブルに発展した場合、代理店側が、当時どのような意向を確認し、どのような説明を行ったのかを事後的に示すことが難しくなります。意向把握は、コンプライアンス対応であると同時に、顧客との認識のずれや、苦情・不適切募集のリスクを抑えるための重要な実務でもあります。

保険業法・監督指針との関係

意向把握・確認義務は、保険業法第294条の2に明文で定められており、具体的な実務上の着眼点は、「保険会社向けの総合的な監督指針」Ⅱ-4-2-2(3)などに示されています。監督指針では、顧客の意向をあらかじめ把握して提案する方法や、商品特性などを踏まえて顧客の意向を推定したうえで、その内容を確認する方法などが示されています。実際の運用は、商品特性、募集形態、所属保険会社の募集ルールなどに応じて設計されます。

意向把握・確認と情報提供は、それぞれ別の義務ですが、実際の募集では相互に関連します。顧客の意向を踏まえて必要な情報を提供し、その説明を受けた後の意向と契約内容との合致を確認するという流れで運用されます。

意向把握・確認義務の適用除外
意向把握・確認義務には、法令上の適用除外となる保険契約があります。ただし、対象となる契約は保険業法施行規則に定められており、商品名や一般的な分類だけで判断することはできません。自社の商品・募集形態が適用除外に該当するかは、所属保険会社の募集ルールや最新の法令を確認する必要があります。

意向把握で確認すべき事項

意向把握・確認の方法は商品特性や募集形態によって異なりますが、実務上は次のような事項を確認し、必要な内容を記録できるようにしておくことが考えられます。以下に挙げる項目のすべてが、あらゆる募集で一律に法令上必須というわけではありません。

  • 公的保険制度に関する情報提供:提案する民間保険と関係する公的保険制度について、顧客が保障の必要性を判断するために必要な情報を提供する
  • 当初の意向確認:顧客が抱える不安、備えたいリスク、希望条件をヒアリングする
  • 既契約の状況:提案内容を検討するうえで必要な範囲で、既に加入している保険の有無や主な保障・補償内容を確認する
  • 顧客が重視する条件:保障・補償内容、保険料、保険期間、給付条件などのうち、顧客が特に重視する事項
  • 商品を提示・推奨した理由:顧客の意向を踏まえ、どのような理由でその商品や契約内容を提案したのか
  • 意向と契約内容の合致確認:申し込もうとする契約内容が、最終的な顧客の意向に合致していることを、顧客が確認できるようにする

ポイントは、これらを「一回のヒアリングで済ませる」ことを前提にせず、説明を通じて顧客の意向が変化した場合には、その変化と最終的な契約内容との関係を確認できるようにすることです。

よくある不十分な事例

現場でありがちな、見直しが必要になりやすいパターンを整理します。

見直しが必要な例

  • 社内で記録することとしている項目に空欄が多く、顧客の意向や提案理由を担当者の記憶だけに依存している
  • 「一般的に選ばれている」といった説明だけで提案を進め、目の前の顧客がその保障を必要としている理由を確認していない
  • 説明後に顧客の意向が変化したにもかかわらず、その内容を確認せず、最終的な契約内容との合致も確認できない
  • 推奨理由が「担当者のおすすめだから」という抽象的な説明にとどまっている
  • 意向把握と情報提供のプロセスが分断され、提案理由が記録に残っていない

これらに共通するのは、「顧客とのやり取りは実際に行われているが、管理者や後任の担当者が、顧客の意向と提案内容との関係を事後的に確認できる状態になっていない」という点です。最も重要なのは、適切な意向把握・確認を実際に行うことです。そのうえで、代理店として実施状況を確認し、必要に応じて説明できるよう、重要な内容を記録しておくことが求められます。

意向把握記録の書き方

具体的な記録項目は、商品特性、募集方法、所属保険会社や代理店の社内ルールによって異なります。実務上の確認項目の例としては、次のようなものがあります。

項目記載内容の例
ヒアリング日時・方法対面/電話/オンラインの別、実施日
公的保険制度に関する情報提供案内した制度や資料、顧客から確認された事項
当初意向顧客が最初に示した不安・希望条件
既契約情報提案に関係する範囲で確認した既契約の有無や主な保障・補償内容
提示・比較のプロセス提示・比較した商品または契約内容と、その商品を提案した理由
最終意向説明後に確定した顧客の意向
意向と契約内容の合致確認顧客自身による確認の方法・記録

書き方のコツ
「病気やけがで働けなくなった場合の収入減少への備えを重視」「月額保険料は〇円程度までを希望」など、実際に確認した内容を具体的に記録すると、後から見返した際にも意向の変化や合致の判断がしやすくなります。募集人側が提示した商品条件をそのまま顧客の意向として書き換えないよう注意が必要です。

AI・システムはどこまで活用できるか

意向把握・比較推奨に関する記録業務は、募集人の作業負荷を大きく圧迫する部分でもあります。近年は、商談音声の文字起こし、要約、記録様式への整理を支援するAI・システムも提供されており、記録作成を補助する手段として検討できます。AIが作成したドラフトを募集人が元の会話や資料と照合し、不足や誤りを修正する運用とすることで、適切に設計・運用すれば、記録作成の負担軽減や記載内容のばらつきの抑制に役立つ可能性があります。

ただし、AI活用には明確な役割分担の前提があります。

AI活用の前提
意向把握・比較推奨における「根拠の明示」「意向の文書化」は、あくまで募集人自身の判断と確認にもとづくものであり、AIはその作業工数を減らすための補助ツールという位置づけにとどまります。AIが作成した内容を利用する場合は、担当者が元の会話や顧客の意向と照合し、正確性と適切性を確認したうえで記録を確定する必要があります。また、AI・システムの利用可否や利用範囲について、所属保険会社と代理店の情報管理ルールを確認する必要があります。AIが生成した記録や説明文を無確認で社内記録や顧客向け資料として使用することは、記載内容の正確性が保証されないため業務上のリスクとなります。

音声認識AIや生成AIを利用する場合は、顧客の氏名、連絡先、健康状態、既契約、家族構成などの情報を外部サービスへ送信してよいかを事前に確認する必要があります。利用サービスのデータ保存・学習設定、保存場所、アクセス権限、再委託先、削除方法などを確認し、所属保険会社と代理店の情報管理ルールに従って運用しなければなりません。また、商談を録音する場合は、録音目的や利用範囲を顧客に説明し、必要な同意を得る運用も検討する必要があります。

金融庁は、金融機関等による健全なAI活用を後押しする一方、データ管理、誤出力、説明責任、ガバナンスなどの論点を整理しています。ただし、金融庁のAIディスカッションペーパーは、意向把握記録における具体的な利用方法や適法性を個別に承認するものではありません。意向把握の現場では、「AIが判断する」のではなく「AIが記録・整理を効率化し、最終判断と責任は募集人が担う」という運用が現実的な落としどころといえます。

今後代理店が取り組むべきこと

  • ヒアリングシートの点検:商品説明などを通じて意向が変化した場合に、その経緯と最終的な意向を確認できる様式・運用になっているか確認する
  • 記録項目の考え方の整理:商品特性や募集方法に応じた必要な記録項目と、記載上の考え方を社内で明確にする
  • 比較推奨プロセスの可視化:商品の提示・推奨理由を、顧客の意向と結び付けて説明できる形にする
  • AI・システム導入の検討:記録作成の負担や不備の発生状況を確認したうえで、情報管理、正確性、費用、所属保険会社のルールを踏まえ、音声認識・記録支援ツールの利用可否を検討する
  • 最終確認フローの徹底:AIが作成した記録や説明文は、担当者が元の情報と照合し、必要な修正を行ってから社内記録または顧客向け資料として確定する
  • 社内研修:見直しが必要な事例を教材化し、営業担当者向けのロールプレイ研修を定期的に実施する

比較推奨販売について、顧客の意向に沿った商品選別・推奨を徹底する方向で制度の見直しが進められていることも踏まえると、意向把握の記録は、顧客が重視した事項と、商品を選別・推奨した理由との関係を事後的に確認するうえで、重要な資料になります。顧客の意向を丁寧に確認し、その内容と提案理由を、後から確認できる形で残していくことが、代理店の信頼性とリスク管理の両面で不可欠です。

意向把握で最も重要なのは、ヒアリングシートを埋めることではありません。顧客が何を重視しているのかを具体化し、その意向と提案内容との関係を顧客自身が確認できる状態をつくることです。記録やAI・システムは、そのプロセスを組織として確実に実施し、後から確認できるようにするための手段として位置づける必要があります。

参考:保険業法第294条・第294条の2、保険業法施行規則、「保険会社向けの総合的な監督指針」Ⅱ-4-2-2、金融庁「公的保険制度に関する情報提供について」、「金融機関等におけるAIの活用実態と健全な利活用の促進に向けた初期的な論点整理」等をもとに作成。具体的な意向把握・確認の方法、記録項目、AI・システムの利用条件は、商品特性、募集形態、所属保険会社および代理店の社内規則によって異なります。最新の法令・監督指針と所属保険会社の募集ルールをご確認ください。

本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による取材・調査・分析をもとに構成しています。

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