JWC、黒海のListed Areasを変更 損保ジャパンは9月28日から船舶戦争保険の航路定限を改定
Joint War Committee(JWC)は2026年9月、船舶の戦争・海賊・テロ等のリスクに関するListed Areasの黒海部分を変更した。損保ジャパンも9月28日から船舶戦争保険の航路定限を改定。
目次
Joint War Committee(JWC)は2026年9月、船舶の戦争・海賊・テロ等のリスクに関するListed Areasの黒海部分を変更した。損保ジャパンも9月28日から船舶戦争保険の航路定限を改定。黒海の対象範囲、引受不可水域、貨物保険との違いなど、実務で確認したいポイントを整理する。
船がどの海域を航行するかによって、船舶戦争保険の取扱いは変わる。
ロンドン保険市場のJoint War Committee(JWC)は2026年9月16日、船舶の戦争、海賊、テロなどに関する「Listed Areas」を改定した。
Circular「JWLA-035」では、Europeのうち黒海について、**「ロシアおよびウクライナ以外の隣接国の領海を除く黒海」**へと定義を変更している。また、このリストを個々の保険契約にどう適用するかは、個別交渉によることも明記している。
国内では、損保ジャパンが外航船の船舶戦争保険について、2026年9月28日午前0時(日本時間)から新たな航路定限を適用した。改定後は、アゾフ海に加え、ロシアおよびウクライナ以外の隣接国の領海を除く黒海などが「(V)Europe」の除外水域として定められている。
ここで注意したいのは、「除外水域」という言葉だけで補償の可否を判断できないことだ。
損保ジャパンの商品説明では、除外水域への航行について、事前に航海内容を通知し、所定の追加保険料を支払うことで補償を継続する仕組みを案内している。一方で、危険度によっては引受けできない場合があるともしている。
そして今回の9月28日版では、黒海を含む(V)Europeと(W)Russiaについては、「いかなる場合も」その範囲における保険を引き受けないと明記されている。
したがって、今回の黒海の変更を「追加保険料を払えば補償できる」と一律に理解することはできない。
8月12日版から、黒海の定義はどう変わったのか
損保ジャパンの8月12日版と9月28日版を比較すると、今回の変更点が分かりやすい。
8月12日版では、(V)Europeのアゾフ海・黒海について、ウクライナ・ルーマニア国境付近からロシア・ジョージア国境まで、複数の緯度・経度を使って定めた水域が除外対象となっていた。
9月28日版では、(V)Europeを次のように整理している。
アゾフ海
ロシアおよびウクライナ以外の隣接国の領海を除く黒海
ウクライナの内陸水域全域
ロシアの所定の内陸水域
北緯52度30分以南のベラルーシの内陸水域
黒海については、従来の座標による指定から、ロシアとウクライナ以外の隣接国の領海を除いた黒海という定義へ変更され、対象範囲が広がった。
JWCのJWLA-035も、黒海について同じ「Black Sea excluding territorial waters of adjoining countries other than Russia and Ukraine」という定義を9月16日付で示している。
ただし、ここから「黒海全体の危険度が一律に同じになった」と読み替えることはできない。
確認できるのは、JWCがListed Areasの定義を変更し、損保ジャパンもその後、船舶戦争保険の航路定限について黒海の対象範囲を変更したという事実である。
JWCのListed Areasは、個別契約の補償を直接決めるものではない
JWCのListed Areasと、個々の保険会社が契約上定める除外水域は分けて考えたい。
JWCは、船舶の戦争、海賊、テロなどに関連する危険について、保険市場が特に留意する地域をListed Areasとして公表している。
しかし、JWLA-035には、
「The application of this list on individual contracts will be a matter for specific negotiation」
と記載されている。つまり、個々の保険契約への適用は個別交渉による。
したがって、
JWCがListed Areasを変更した
=世界中の船舶戦争保険が同じ日時から同じ条件になる
という関係ではない。
日本で実際の補償や引受可否を確認する場合は、加入している保険会社が定める最新の航路定限、約款、特別条項などを確認する必要がある。
今回取り上げている「9月28日からの取扱い」も、損保ジャパンが公表している外航船の船舶戦争保険に関する航路定限についてのものである。
今回の(V)Europeは追加保険料による引受対象ではない
損保ジャパンの商品説明では、外航船について航路定限を原則「世界水域」としながら、軍事的緊張地域などを除外水域としている。
通常、除外水域へ入る場合には、航海内容を事前に通知し、所定の追加保険料を支払うことで補償を継続する仕組みが案内されている。また、除外水域や追加保険料は世界情勢によって変化し、危険度の高い地域では引受けできない場合もある。
今回の黒海では、その「引受けできない場合」に該当する点を押さえておきたい。
9月28日版の第2条は、
前条に掲げる除外水域のうち、(V)および(W)については、当会社はいかなる場合も、その範囲における保険の引受を行いません。
と定めている。
したがって、損保ジャパンのこの航路定限を前提とする限り、今回範囲が変更された黒海について、
「除外水域ではあるが、追加保険料を支払えば船舶戦争保険を付けられる」
と説明することはできない。
「除外水域」という同じ名称でも、条件付きで引受可能な区域と、引受自体を行わない区域があることを分けて確認する必要がある。
船舶戦争保険とは何を補償するのか
船舶戦争保険は、通常の船舶保険では免責となる戦争危険などを別途補償する保険である。
損保ジャパンは、主な補償対象として、
戦争その他の変乱
ミサイル、魚雷、爆弾
襲撃
だ捕、捕獲、抑留
海賊行為・強盗
ストライキなどの争議行為
暴動、社会的騒じょう
テロ行為
などを挙げている。核兵器の爆発は除外される。
また、戦争危険による船体の物理的損害を補償する船舶戦争保険のほか、船舶が損傷し稼働できなくなった場合の経済的損失を対象とする船舶不稼働損失戦争保険、戦争危険による船主の賠償責任を対象とするWAR P&Iなどもある。
つまり、「戦争保険に入っている」というだけでは、具体的にどこまで補償されるのかは判断できない。
実際の契約では、適用される商品・約款・特別条項を確認する必要がある。
今回の改定は「船舶戦争保険」の航路定限
もう一つ、混同を避けたいのが船舶保険と貨物保険である。
今回、損保ジャパンが9月28日から改定した航路定限は、外航船の船舶戦争保険についてのものだ。
荷主企業が商品や原材料などに付保する外航貨物海上保険とは別の契約である。
外航貨物海上保険でも戦争危険を補償する仕組みは存在するが、適用される約款や補償期間、条件は船舶戦争保険と同じではない。
したがって、
船舶戦争保険で黒海の除外水域が変更された
=その船に積まれている貨物の保険も自動的に同じ条件で補償されなくなる
ということではない。
貨物については、その貨物に付保されている外航貨物海上保険の戦争危険に関する約款・条件を別途確認する必要がある。
この切り分けは、荷主企業から「黒海を通る貨物に保険が付くのか」と問い合わせを受けた場合には特に重要になる。
国名や地域名だけで補償可否を判断しない
損保ジャパンの航路定限を見ると、黒海以外にも、中東、紅海・アデン湾、ペルシャ湾周辺、アフリカ、南米などに除外水域が設定されている。
ただし、その指定方法は地域ごとに異なる。
例えば、
一定の座標で囲まれた水域
沿岸から一定距離まで
沖合施設への寄航時のみ
積荷や人員の乗下船等を行わず通航する場合は除外水域として扱わない区域
などがある。
したがって、「その国がListed Areasに含まれているから」「その海域を通るから」というだけで、補償の有無を判断することはできない。
実際の航路、寄港地、通航方法と、適用される航路定限の記載を照合する必要がある。
航海・輸送の計画段階で確認したい8項目
海上保険を扱う代理店、ブローカー、企業の保険担当者にとって重要なのは、Listed Areasの変更を把握するだけではない。
実際の輸送計画と保険契約を結び付ける必要がある。
| 確認項目 | 実務で確認する内容 |
|---|---|
| 保険の種類 | 船舶戦争保険なのか、外航貨物海上保険なのか |
| 航路 | 最新の航路定限で指定されている水域を通過するか |
| 寄港・通航 | 通過だけか、荷役・人員乗下船・寄港等を伴うか |
| 適用時点 | その航海にどの時点の航路定限が適用されるか |
| 引受可否 | 条件付きで引受可能な区域か、引受不可の区域か |
| 保険会社への通知 | 事前通知や条件確認が必要か |
| 貨物側の契約 | 船舶とは別に貨物の戦争危険を確認したか |
| 航路変更 | 航路や寄港地の変更で保険条件が変わらないか |
※損保ジャパン等の公表資料を踏まえ、INSURANCE JOURNAL編集部が実務上の確認事項として整理したもの。個別契約の通知義務、補償内容、引受可否等を示すものではない。
特に戦争危険では、出航直前に初めて確認するのではなく、航路を検討する段階で保険担当者と情報を共有しておくことが重要になる。
損保ジャパンも、緊張度の高い地域については、航海スケジュールが決まった時点で引受条件を決定し、危険度によっては引き受けできない場合があるとしている。
契約期間中でも解除・自動終了の規定がある
船舶戦争保険では、保険期間中であっても契約の扱いが変わり得る。
損保ジャパンは、航路定限内の水域で武力紛争が起こり、戦争危険度が高まったことなどから現在の条件で引受けを継続できないと判断した場合、7日前の書面予告によって保険契約を解除できるとしている。
ただし、米国、英国、フランス、ロシア、中国のいずれかが関与する事態を理由とする場合は、72時間前の書面予告となる。
さらに、これら5か国間の戦争や政府による船舶の強制使用など一定の場合には、保険契約が自動的に終了する規定も設けられている。
したがって、
「年間契約を締結したので、最初の条件が保険期間中ずっと変わらない」
とは限らない。
実際の契約については、適用される約款・特別条項を確認する必要がある。
「黒海はもう保険が付かないのか」と聞かれたら
顧客企業から、
「黒海が除外水域になったと聞いた。うちの輸送にはもう保険が付かないのか」
と聞かれることも考えられる。
この質問に、すぐ「付かない」「追加保険料を払えば付く」と答えるのは避けたい。
最初に確認すべきなのは、何の保険についての質問かである。
船そのものを対象とする船舶戦争保険なのか、積荷を対象とする外航貨物海上保険なのかで確認する契約が異なる。
船舶戦争保険であれば、加入している保険会社と適用される最新の航路定限を確認する。
損保ジャパンの9月28日版を例にすると、今回の黒海を含む(V)Europeについては、同社がその範囲における保険を引き受けないことが明記されている。
一方、貨物保険の補償可否を確認したいのであれば、船舶側の航路定限だけから判断せず、貨物に付保された保険の戦争危険に関する条件を確認する。
代理店や企業の保険担当者に求められるのは、国際情勢そのものを評価することではない。
ニュースとして発生した変更が、顧客のどの契約に関係し、何を確認する必要があるのかを切り分けることである。
海上保険では「前年と同じ航路だから」では判断できない
JWCは9月16日、黒海に関するListed Areasの定義を変更した。その後、損保ジャパンは9月28日から外航船の船舶戦争保険に新たな航路定限を適用している。
今回の変更を理解するうえで重要なのは、「危険な海域が増えた」と一般化することではない。
実務では、
どの海域が契約上の除外水域なのか。
その水域は条件付きで引受可能なのか、引受自体を行わないのか。
確認している保険は船舶なのか、貨物なのか。
この三つを分けて考える必要がある。
航路定限は固定されたものではない。損保ジャパンも、除外水域は世界情勢によって変動すると案内している。
だからこそ、「前年も同じ航路だった」「前回は補償された」という経験だけで、今回も同じ条件だと判断することはできない。
海上保険の戦争リスク対応で必要なのは、将来の国際情勢を予測することではなく、航海・輸送の計画ごとに最新の航路定限と契約条件を確認することである。
主な参照資料
Joint War Committee(LMA/IUA)「JWLA-035 JWC Listed Areas - Hull War, Piracy, Terrorism and Related Perils」(2026年9月16日)
損害保険ジャパン「船舶戦争保険 航路定限(世界水域)」(2026年9月28日改正)
損害保険ジャパン「船舶戦争保険 航路定限(世界水域)」(2026年8月12日改正)
損害保険ジャパン「船舶戦争保険」
損害保険ジャパン「船舶戦争保険 航路定限(除外水域)のご案内」
※本記事は2026年9月28日時点で公表されている資料に基づく一般的な解説です。船舶戦争保険および外航貨物海上保険の補償内容、航路定限、通知義務、追加保険料、解除・自動終了、引受可否は、保険会社、契約、適用約款、特別条項、航路および時点によって異なります。実際の航海・輸送については、最新の契約条件を取扱代理店、ブローカーまたは保険会社に確認してください。
本記事はINSURANCE JOURNAL編集部による解説・分析です。制度・商品の詳細は公式発表をご確認ください。


