【特集】保険業法改正で、仕事はまた増えるのか。
面倒が増える時代だからこそ考えたい、保険代理店の仕事の変え方「また仕事が増えるのか。」保険業法改正の話題になると、代理店の現場ではそんな声が聞こえてきます。点検、教育、記録、苦情管理――。制度改正のたびに管理項目は増え、現場の負担は少しずつ重くなっていく。
目次
面倒が増える時代だからこそ考えたい、保険代理店の仕事の変え方
「また仕事が増えるのか。」
保険業法改正の話題になると、代理店の現場ではそんな声が聞こえてきます。
点検、教育、記録、苦情管理――。制度改正のたびに管理項目は増え、現場の負担は少しずつ重くなっていく。一方で、人員が増えるわけではありません。募集活動に時間を使いたいのに、管理業務に追われる。多くの代理店が、そんなジレンマを抱えています。
もちろん、制度改正には理由があります。金融庁は、保険金不正請求事案や保険料調整行為事案を踏まえ、顧客本位の業務運営を徹底し、健全な競争環境を実現するため、保険会社や一定の保険代理店に対する管理態勢の強化などを盛り込んだ保険業法改正を進めました。これは公表されている法案説明資料にも明記されています。
制度の目的そのものに異論を唱える代理店は多くないでしょう。問題は、その目的を現場でどう実現するかです。
制度が求める水準は理解できる。しかし、日々の業務はすでに手一杯。その現実を前にすると、「どうやって回せばいいのか」という疑問が生まれるのは自然なことです。
本特集では、法改正の内容を条文ごとに解説することを目的にはしません。現場で実際に起きている課題を整理しながら、「これからの仕事の進め方」を考えていきます。
制度が求めているのは、「管理項目」を増やすことではない
保険業法改正というと、「新しい義務が増える」という印象を持たれがちです。
しかし、金融庁の説明資料を読むと、今回の改正が目指しているのは、顧客本位の業務運営を組織として継続できる管理態勢を整えることです。
言い換えれば、「仕事を増やすこと」そのものが目的ではありません。
例えば、募集記録を適切に残すこと、教育を継続して実施すること、苦情を管理し改善につなげること、点検結果を組織で共有すること。こうした取り組みは、今回の法改正によって突然必要になったものではなく、これまでも代理店運営の中で重要とされてきた業務です。
今回の改正は、それらを属人的な取り組みではなく、組織として継続できる体制へと引き上げる方向性を示していると読み取ることができます。※1
一方で、現場から見れば話は別です。
管理の重要性が高まれば、それを支える仕事も増えます。
確認する項目は増え、残す記録は増え、管理する情報も増える。制度の目的と現場の負担は、必ずしも矛盾するものではありません。両方とも事実なのです。
「品質を上げる」と「仕事が増える」は、同じ意味ではない
ここで一つ整理しておきたいことがあります。
業務品質を高めることと、事務作業を増やすことは、本来イコールではありません。
例えば、同じ情報を複数のシステムへ転記する、Excelで一覧を作成し、それを紙で保管する、点検結果を別の資料へ書き写す――。こうした作業は、多くの代理店で日常的に行われています。
もちろん、それぞれに理由があります。
しかし、それらは「品質」そのものではなく、「品質を維持するために発生している作業」です。
もし、同じ品質を保ちながら作業そのものを減らせるのであれば、現場の負担は大きく変わります。
制度改正をきっかけに考えたいのは、「何を残すか」だけではなく、「どうやって残すか」という視点です。
「頑張る」だけでは続かない
保険代理店の仕事は、募集だけではありません。
顧客対応、保険会社との連携、更新手続き、社員教育、点検、苦情対応、各種報告……。制度改正とは関係なく、日々やるべき仕事は山積みです。
その中で管理業務がさらに重要になる一方、人材確保は容易ではありません。
だからこそ、現場ではこんな声を耳にします。
「品質は落とせない。でも、これ以上仕事は増やせない。」
これは制度への不満ではありません。現場が抱えている、ごく現実的な課題です。
そして、この課題に対して「頑張りましょう」という精神論だけでは限界があります。
そこでDXという選択肢が見えてくる
ここ数年、保険業界でもDXという言葉を目にする機会が増えました。
CRM、RPA、電子契約、生成AI、ワークフロー――。さまざまなサービスが登場し、代理店向けの提案も活発になっています。
一方で、「法改正だからDXが必要だ」という説明には少し違和感があります。
金融庁は、特定のシステムや技術の導入を求めているわけではありません。
それでもDXが注目される理由があります。
それは、制度改正がDXを必要としているからではなく、現場がDXを必要とし始めているからです。
仕事は増える。品質は落とせない。人は簡単には増やせない。
この現実の中で、「今までと同じやり方を続けること」が難しくなり始めています。
その結果として、情報を一元管理するCRM、定型業務を自動化するRPA、申込や承認を効率化するワークフロー、文書作成や情報整理を支援する生成AIなどが、「業務を続けるための選択肢」として検討されるようになっています。
ここで重要なのは、DXは制度対応のための道具ではないということです。
DXは、制度対応を含めた日々の仕事を、品質を維持しながら回し続けるための手段です。
DXの価値は、「速くすること」だけではない
DXというと、「効率化」という言葉が先に出てきます。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし、保険代理店にとってのDXは、それだけではありません。
例えば、入力漏れを防ぐ、承認履歴を残す、記録を検索しやすくする、点検状況を見える化する。これらは単なる効率化ではなく、業務品質を安定させる取り組みでもあります。
人によって管理のばらつきが生まれないようにする。
確認漏れを減らす。
必要な情報をすぐ取り出せるようにする。
こうした積み重ねは、結果として管理態勢の実効性にもつながっていきます。
だからDXは、「仕事を楽にするための投資」というより、「品質と効率を両立するための仕組みづくり」と考えた方が実態に近いのではないでしょうか。
編集部の視点
制度改正があるたびに、「何を追加でやらなければならないのか」という議論になりがちです。
しかし、現場で本当に考えたいのは、「今の仕事を、この先も続けられるか」という問いではないでしょうか。
品質を維持しながら、限られた人員で業務を回す。そのためには、管理業務を増やすことだけでなく、仕事の進め方そのものを見直す視点も必要です。
制度は変えられません。
一方で、仕事の進め方は変えられます。
今回の保険業法改正は、現場にとって負担が増える側面を持つことは事実です。しかし、それをきっかけに「これまでと同じやり方」を見直す機会と捉えることもできます。
INSURANCE JOURNALでは、制度改正を入り口にしながら、現場の仕事をより良くする方法を考えていきます。
AI、RPA、CRM、電子契約、データ活用――。
これらを「DX」という流行語として紹介するのではなく、「現場の課題をどう解決できるのか」という視点から、一つひとつ掘り下げていく予定です。
本記事は転載元の公式発表をもとに INSURANCE JOURNAL が掲載しています。掲載内容は公開時点の情報に基づきます。