業界動向

年間3.4兆円の損失をビジネスに変える。保険×フェムテック、5社が示した「次の10年」の設計図 /ホケンノミライ2026

年間3.4兆円の損失をビジネスに変える。保険×フェムテック、5社が示した「次の10年」の設計図 /ホケンノミライ2026

0.はじめに2026年3月6日にFinGATE KAYABAで開催された「ホケンノミライ2026」で実施されたセッション「フェムテックの保険会社事例&スタートアップピッチ」について、当日の内容をもとに詳細レポートします。

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目次
  1. 0.はじめに
  2. 1.保険業界の"本丸"が動き始めた
  3. 2.保険業界「3つの構造変化」
  4. 3.5社のピッチが描いた、保険の"次の形"
  5. 4.保険会社は「ライフタイム・パートナー」になれるか
  6. 筆者紹介

0.はじめに

2026年3月6日にFinGATE KAYABAで開催された「ホケンノミライ2026」で実施されたセッション「フェムテックの保険会社事例&スタートアップピッチ」について、当日の内容をもとに詳細レポートします。

1.保険業界の"本丸"が動き始めた

なぜ今、保険会社がフェムテックに本気なのか。その答えは明快である。女性特有の健康課題による経済損失は年間約3.4兆円(経済産業省試算)。共働き世帯の増加で女性が保険の「主要顧客」へとシフトし、ウェアラブルデバイスが生体データの取得を日常に変えた。

もはやフェムテックは「女性向けオプション」ではなく、保険ビジネスの中核領域になりつつある。

セッションの様子

2.保険業界「3つの構造変化」

セッション冒頭に登壇したのは、ウィメンズヘルス・イノベーション協会理事の木村恵氏。保険業界20年超のキャリアを持ち、フェムテック黎明期から100件以上の起業家支援に関わってきた人物だ。

木村氏がまず示したのは、衝撃的な身体的事実である。現代女性の生涯月経回数は戦前の約10倍。約50回から約450回に激増した。初潮の早まりと出産数の減少が原因で、子宮・卵巣への負担は以前とは比較にならない。この「身体のリアル」が、保険商品設計の前提そのものを揺さぶっている。

その上で木村氏は、保険会社がフェムテックに取り組むべき理由を3つの構造変化として整理した。

第一に、顧客像の転換。「被扶養者」だった女性が「主要顧客」になった今、男性モデルを標準とした商品設計では多様な健康リスクを捉えきれない。

第二に、法人マーケットの変質。人的資本経営の要請のもと、不妊治療や更年期支援は企業の福利厚生における「新インフラ」になりつつある。保険会社がフェムテック企業と組むことで、法人顧客との接点は格段に深まる。

第三に、データが保険の常識を書き換える。ウェアラブルから取得したバイタルデータが、不妊治療保険や産後うつ保険といったパーソナライズ商品の設計を可能にし、「事後補償」から「伴走型・予防」へのモデル転換を加速させる。
木村氏は「単なる啓発ではなく、テクノロジーで女性の健康課題を解決する産業エコシステムの構築が不可欠」と総括した。

木村 恵氏(一般社団法人ウィメンズヘルス・イノベーション協会 理事)

3.5社のピッチが描いた、保険の"次の形"

基調講演に続き、保険業界との親和性が高い5社がピッチを行った。それぞれが異なるアングルから「保険×フェムテック」の具体像を提示している。

①パナソニック『RizMo』〜体調リズムの可視化で予防型保険の土台をつくる〜

パナソニックのウェアラブルサービス『RizMo(リズモ)』は、睡眠データと衣服内温度計測から、生理周期と連動する温度変化の二相性を日常的にトラッキングし、女性の体調リズムをデータ分析により可視化し健康行動に関するアドバイスまで提供している。プレ更年期サポートやプレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)への活用が期待されている。

注目すべきは、RizMoの企業向けサービスでは、専門家による職場ワークショップとパッケージ化されている点だ。従業員は、RizMoのパートナー共有や専門家相談機能に加え、職場のコミュニケーションサポートサービス(ワークショップ)を通じて、
「一人じゃない」という安心感が心理的安全性の醸成につながる。

日常の計測データは、行動変容を後押しするデータ基盤として、予防型サービスや企業の健康支援プログラムとの接続点が極めて多い。

※RizMoの企業向け展開
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社|新しい当たり前をつくり女性が働きやすい社会を【経済産業省】

図師 和彦氏(パナソニック株式会社 ビューティ・パーソナルケア事業部 ビジネスデザイン部 課長)
窪田 絢氏(パナソニック株式会社 ビューティー・パーソナルケア事業部 ビジネスデザイン部)

②ファミワン 〜「保険×フェムテック」は実装フェーズへ〜

妊活コンシェルジュサービスを展開するファミワンは、保険業界との協業実績がすでに複数ある。住友生命グループのアイアル少額短期保険とは、妊娠週数を問わず加入でき異常妊娠・産後うつも保障する「ディアベビー」を共同開発。アフラック生命、第一生命とも所得保障保険領域で連携が進んでいる。

代表の石川勇介氏は「重篤化してからの事後的治療ではなく、啓発による早期受診・早期発見が医療費抑制と社会コスト低減に直結する」と指摘。不妊治療の保険適用化に伴い健保組合の負担が増す中、「禁煙」「メタボ」に続く予防アクションとして不妊対策が広がりつつあるという。

ファミワンの事例は、「保険×フェムテック」がコンセプトを超え、社会実装のフェーズに深く入ったことを証明している。

石川 勇介氏(株式会社ファミワン 代表取締役)

③FUJIYAMA BRIDGE LAB「つきのかたち」〜AIが叶える"評価されない相談〜

「つきのかたち」は、AIキャラクター「ルミナ」が働く女性の心身の悩みに寄り添うウェルビーイングパートナーアプリだ。開発者の石岡美来氏自身の月経課題の経験から生まれた。

このアプリの本質は、「人事評価される心配がない」相談環境にある。月経・PMS・更年期と、キャリア形成期が重なる女性が抱える悩みは繊細で、上司や同僚には打ち明けにくい。AIだからこそ、時間や立場を気にせず本音で相談できる。企業側にも、従来のアンケートでは見えなかった潜在課題を可視化できるメリットがある。

経済産業省の「フェムテック等サポートサービス実証事業」にも採択されており、企業向け団体保険や健康経営支援との連携が視野に入る。

石岡 美来氏(FUJIYAMA BRIDGE LAB株式会社 プロダクトマネージャー)

④ヘルスアンドライツ『ケアミー』〜100万人のデータが変える保険商品の可能性〜

生理・PMS共有アプリ『ケアミー』は、産婦人科医監修のもと月経随伴症状を分析・予測し、LINEを通じてパートナーと共有できるサービスだ。リリースから数年で利用者は100万人規模に急成長した。

代表の吉川雄司氏が示したデータは重い。働く女性の約2人に1人が月経随伴症状で生産性低下を感じ、その労働損失は年間約4,911億円。一方で、経産省はフェムテック普及による損失半減で約2,500億円の経済効果を見込む。

吉川氏はアプリ提供にとどまらず、企業セミナーや中高での保健授業支援など包括的な啓発活動にも注力する。蓄積された膨大な症状データと予測アルゴリズムは、女性特有の体調不良に特化した少額短期保険や、パートナーを含む家族全体の健康支援保険の基盤になり得る。

吉川 雄司氏(株式会社ヘルスアンドライツ 代表取締役)

⑤vivola 〜「治療費リスク」から「人生プランリスク」へ、保険の問いを再定義〜

不妊治療データ解析スタートアップのvivolaは、5社の中で最もラディカルな問題提起を行った。
日本では2022年に不妊治療が保険適用化され、適用外の治療にも自治体助成がある。つまり「高額な治療費」という切り口での保険商品設計は難しい。

では、不妊治療患者の"真のリスク"とは何か。代表の角田夕香里氏はこう答える。治療の長期化、仕事との両立困難による離職、ライフプランの遅延と不透明化、それに伴うメンタルヘルスの悪化や住宅購入・教育資金形成への影響。

治療費そのものではなく、「人生プランのリスク」をいかに保障するか。この問いの転換こそが、vivolaの核心にある。

同社はリアルワールドデータ(RWD)の解析ツール『vivola-Analytics』『cocoromi』を提供し、不妊リスクや周産期リスクの早期把握を可能にする。具体的な保険への応用として、治療長期化リスクに連動した「Fertility Riskスコア連動型保険」、企業健診へのプレコンセプション関連検査の追加、医療機関選定やセカンドオピニオン提供といった「治療ナビ型」付帯サービスの3つを提案した。

角田 夕香里氏(vivola株式会社 代表取締役CEO)

4.保険会社は「ライフタイム・パートナー」になれるか

5社のピッチを通覧して浮かび上がるのは、保険のバリューチェーンそのものが拡張されつつあるという事実だ。

ウェアラブルデータによる生体リズムの可視化(パナソニック)、LINEを活用したパートナーとの症状共有(ケアミー)、AIによる心理的安全性の高い相談体制(つきのかたち)、実績ある保険商品の共同開発(ファミワン)、そしてRWDに基づく人生プラン保障の再設計(vivola)。予防から伴走、データ解析から商品設計まで、フェムテックは保険ビジネスのあらゆる階層に入り込み始めている。

保険会社はもはや「リスクを引き受けて金銭を支払う存在」にとどまることはできない。フェムテックスタートアップと協創し、データを駆使して女性の健康とキャリアの自律を日常的にサポートする「ライフタイム・パートナー」への進化が問われている。

年間3.4兆円の経済損失は、裏を返せば、それだけの市場機会がまだ手つかずで残っているということだ。「今動かなければ、機会損失を招く」木村氏の言葉が、セッション終了後も会場に重く響いていた。

左から、木村氏、図師氏、窪田氏、石川氏、石岡氏、吉川氏、角田氏

「ホケンノミライ2026」の全セッションのレポート記事はこちらをご覧ください。

筆者紹介

引用元GuardTech検討コミュニティ

本記事は転載元の公式発表をもとに INSURANCE JOURNAL が掲載しています。掲載内容は公開時点の情報に基づきます。

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